2009(平成21)年度 海外留学帰国報告書

ノッティンガム大学(イギリス)法学部 法律学科 帰国報告書

1.留学中の活動詳細について

授業の開講期間について

この留学は4月16日から6月26日の『アカデミック・イングリッシュ1』、少しの休暇をはさみ、7月9日から9月18日までの『アカデミック・イングリッシュ2』、土日をはさみ、9月21日から翌年の1月22日までの『アカデミック』に分かれていますが、9月21日から27日まではフレッシャーズ・ウィークといって、新入生歓迎週のようなもので授業は開講されませんでした。私の学部は他の学部よりも早めに授業が開講されましたが、学部や、その人の受講する講義によっては10月半ばから開講されるものもありました。周りを見渡して判断すると、基本的には10月上旬から授業が始まり出します。そして、私の学部はありませんでしたが、神学部や文学部など、いくつかの文系の学部には年内に1週間のリーディング・ウィークというものがあり、その期間にも授業は開講されません。また、12月12日から1月10日まではクリスマス・ホリデーで授業は開講されません。年が明けると授業はなく、1月11日からの2週間にテストやエッセイの提出があります。1年間の留学ということですが、実質、4月16日から翌年の1月22日まできっちりイギリスにいたとしても9カ月と1週間ですので、案外短いです。

アカデミック・イングリッシュ1(4月16日~6月26日)

アカデミック・イングリッシュ1を受け、期末試験で通過することができればアカデミック・イングリッシュ2に入り、その期末試験でも通過することができればアカデミックに入ることができるというシステムになっていますが、私たちのような1年間の留学生はきちんと授業を受けている限りほぼ試験に通過することができます。しかし、3週間以上入学が遅れると本当に試験に通過しなければいけなくなります。私の場合、ノッティンガム大学からの入学許可証が遅れた関係で3週間以上入学が遅れたので、試験に通過する必要がありました。それでも、アカデミック・イングリッシュ1のレベルなら日本で勉強していたTOEFL等の知識でカバーすることができます。このタームの試験科目はライティング、リスニング、グラマー、リーディング&サマリー、スピーキングです。期末試験の前に中間試験があり、期末試験と全く同じ環境で試験を受けることができるので良い練習になります。
クラスは約20人の生徒で構成されており、クラスメイトの国籍は私以外おそらく全員がリビア人もしくはサウジアラビア人でした。私のクラスに限らず、英語コース全体に目をやっても同じような配分でした。アラビア系の方で第二言語として英語を学習している人の英語は、日本人などのアジア系の生徒にとってはとても聞き取りにくいものです。そして、休み時間や授業中に関係なく多くの生徒が共通語であるアラビア語を話す傾向にあるので、アラビア語を理解できないのであれば多少輪に入りにくい感じがあります。しかし、幸い私の周りの人たちはとても友好的だったので毎日楽しく過ごすことができました。

アカデミック・イングリッシュ2(7月9日~9月18日)

ノッティンガム大学には中国キャンパスがあるので、夏休み中にイギリスの東大阪キャンパスで語学(もしくは専門分野)を勉強する中国人がたくさん入ってきました。アラビア系の方たちの数は個々人の様々な事情により激減し、クラスメイトの内訳は日本人2人、韓国人1人、マカオ人1人、カザフスタン人2人、タイ人1人、中国人1人、トルコ人1人、そして、アフリカ大陸の国の人が1人というとても多国籍なものになりました。英語コース全体では、中国人60パーセント、韓国人25パーセント、そして残りの15パーセントが日本人、台湾人、マカオ人、タイ人、ロシア人、カザフスタン人、その他という割合です。
このタームの期末試験科目はリスニング、リーディング、プロジェクト、プロジェクトの内容でプレゼンテーション、エッセイライティングです。その中でもコースのメインはプロジェクトにおかれていました。それは自分の専門分野について最低6冊以上の専門書を読み、3000ワーズで論文のようなものを形成するというものでした。私は法学部で、期末試験で取得しなければならない成績が他の学部の規定よりも高かったので、院に入学する人用の特別クラスに配属されてしまいました。なので、毎日プロジェクトや他の科目の勉強に追われていたというのが実情です。

アカデミック(9月21日~翌年1月22日)

アカデミックの授業は衝撃的に難しいです。ノッティンガム大学法学部は、(2009年情報で)法律の分野ではイギリスで4番目の難関大学なので少し他の学部とは違うのかも知れませんが、私の知っていた『大学の授業』とは全てが違いました。イギリスの講義室は私が見る範囲では200人収容ほどで、空いている席がないくらいツメツメに生徒が座り、それでも入りきらない生徒は椅子を持ち入れて膝の上でノートをとっています。授業中に寝る生徒は1人もいず、全員見事に先生の方を向いています。講義室で手をあげて質問することなんて普通です。みんな本当に熱心で圧倒されました。周りのイギリス人の話を聞いていると、『毎日勉強しているよ。』と言っていました。1セメスターで4~5科目ほど履修するのですが、1科目は週に2~3回あり、毎回テキストを100ページほど事前に読んでくるように課せられます。テキストは大きく、分厚く、内容は複雑だし、単語も今まで見たこともないような専門用語ばかりです。電子辞書には載っていないのもたくさんあるので、インターネットで調べるか無視していました。インターネットで調べても英語で説明されていてその英語も難しいので結局イマイチ理解できませんでした。何時間もそのような本を読んでいると、今自分が生きているのか生きていないのかも分からなくなりました。むしろ『もうそんなんどっちでもええや。』という感じでした。イギリスの大学生のすごいところは、みんなただ読んでくるだけでなく、自力で30ページほどのノートにまとめてきます。授業中の質問も、あらかじめ『ここを質問するぞ。』と用意してきたようにタイミングよく質問します。授業とは別に、2週間に1回Tutorialというものがあります。それは先生が1人と生徒が8人ほどという少人数制で、ディスカッションのような形でアウトプットすることによって理解を深めようというものですが、その準備としてもたくさんの書類を読む必要があります。そこでは発言しないと出席したことにならないので、何回も意見を求められました。普通に考えたら、ただの罰ゲームです。留学中で一番辛かったことでした。

私生活

8カ月強という限られた期間の留学生活なので、自分から積極的に動き、学内外のパーティーなどのイベントに参加して老若男女問わず友好関係を広げました。私は日本にいた時から色々な情報を調べてあちこちのイベントやボランティアや勉強会などに参加するのが好きだったため、あちらでも同じようなことをして遊んでいました。活発にしていると自分から放たれる空気もアクティブなものとなるので、周りの友達から誘われてロンドンであった数千人規模のプロテストに参加したこともありました。また旅行サークルに入ったので、週末にはストーンヘンジやカーディフなど、イギリス国内の名所を訪れました。長期休暇にはヨーロッパの他の国に列車で旅に出ることができたので、世界の大きさを実感することができました。

ノッティンガム生活、寮生活

円高の時期というのがあり、物価も日本とほとんど変わりませんでした。大学から街まではバスで1.50ポンドもしくは1.60ポンドで、乗るバスによって異なります。バスを利用すると20分くらいで着きますが、歩いて行くと1時間かかります。ノッティンガムは少し田舎ですが、なんでもあるので特に困ることはありませんでした。空が広くて、のどかで美しい街です。隔週末には街でマーケットが開かれ、地元の野菜や手作りのケーキなどが屋台で売られています。
寮は、アカデミック・イングリッシュ1の期間、アカデミック・イングリッシュ2の期間、アカデミックの期間、クリスマス・ホリデーの期間と別々の寮に移動しないといけません。私の場合は幸いにも受付の人の配慮で1度しか寮を移動する必要はありませんでしたが、これは例外です。一番メジャーな寮のスタイルは、1人部屋で、トイレ・シャワーがシェア、そして食事付きというものですが、食事は美味しく、シャワーの時間が重なったことは一度もありませんでした。食事は、肉2種類とベジタリアン1種類の3種類の中から選ぶことができます。お昼は食事カードが渡され、4.70ポンド分の食事を学内のカフェなどで摂るができます。私の場合寮の食事に不満を感じたり、日本食を恋しく思ったことは一度もありませんでした。水道水は、私の場合飲んでも大丈夫でした。

2.留学の成果について

英語

イギリスに着いて最初は、今まで自分が学習していた英語と実際に話されている英語があまりにも違いすぎてショックを受けました。イギリス英語とアメリカ英語の違いも想像を絶するほど大きく、何より、アカデミックな英語とスラングの混じったフランクな英語の違いが凄まじく大きかったです。日本語でもそうであるように、学生の会話では話が飛んだり変わったりすることが頻繁にあります。イギリス人5~6人+私というような輪の中で話している時など、周りが何で盛り上がっているのかさっぱり分からないという状況で、自分の下手な英語なんて使い物にならないと思い知らされました。その場にいるのですらとても辛い時が何度もありました。生活に必ず必要な『言語』という能力が低いことは、とても悔しいことでした。
しかし、それが引き金となりさらに英語への勉強意欲が湧きました。イギリスに住んでいるとBBCのテレビを観ることができるので、中学生向けの30分ドラマなどをよく教材として活用しました。最初に字幕なしで最後まで観て、次に一時停止を繰り返して全てのセリフをいらないプリントの裏などに書き留めました。同じシーンを何回も何回も繰り返して観て、どうしても分からないというところは前後の文脈から判断して適当に埋めます。その次に字幕付き(BBCなので英語字幕)で観て、答え合わせをします。そして自分の耳の納得がいくまで何回も何回も繰り返して聞き、分からない言葉や表現をノートに書き留めていきます。そして、自分も同じように言えるようになるまでとことん真似をしながら再生します。これを毎朝5時に起きて3時間弱やっていました。30分のドラマですが、完璧にするのに約1週間かかるので、翌週の放送にちょうど良いくらいに間に合います。あとは、その単語・表現やその他の日常で出会う知らない単語・表現などをメモして夜に暗記して、翌朝起きた時に確認します。これを学校の課題にプラスしてやり、あとはできるだけたくさん英語を話すように心掛けました。しかし正直なところ、30分のドラマに使われている表現なんて少しだし、いらないようなものもたくさんありました。実際の生活で同じ表現が出てきたこともそう多くはないです。つまり、どちらかというと、自己満足の範囲でやっていたようなものです。これが力になるのかどうかは分かりませんでしたが、何もしないということはできませんでした。それほど、最初のショックは私にとって大きなものでした。
留学も7カ月目になり、ようやくイギリスでの生活にも慣れてきて、英語にも慣れてきて、友達も増えてきたころ、自分のダメダメな英語を公にすることへの不快感も少しですが薄れてきました。私の周りはほぼ全員イギリス人だったため、英語のネイティブと自分の英語を比較して『まだまだ駄目だ!』と自分を卑下していましたが、周りの友達に『あなたの英語、最初の頃に比べてすごく伸びたわ!自分でも分かるでしょう?』とか、初対面の人に『君の英語すごく良いよ!まだ留学7カ月目なのに、そこまで話せるなんて信じられないよ!』とまで言われるようになりました。お世辞が入っているのは自分でも重々分かっていますが、色々な場面でそう言われることが急に増えたので、自分の英語力の向上を実感しました。そしてそれが自分の自信に繋がり、『留学生なんだから、ネイティブと比較する必要はない。ダメな英語でも、伝われば問題ない。』と開き直るきっかけになりました。

今後の人生のベクトル

私は、4回生で留学しましたが、就職先を決めずに留学しました。周りの友達が毎日スーツを着て説明会などを梯子しているという中、就職先を決めずに留学するという決断を下してもよいものかと少し悩みましたが、あまりにも気分が乗らなかったので就職活動はしませんでした。これから留学をして、世界を広げて、多くのことを勉強して、様々な価値観を見つけて帰ってくる(予定だ)というのに、その後の就職先が決まっていたら自分自身を妥協させてしまい、可能性を広げることが難しくなると思いました。
ノッティンガム大学には、私の興味のある分野で世界的に有名な教授が2人いるのですが、イギリス生活も慣れた頃、私は勇気を出してその先生たちの研究室をノックし、記念に雑談をさせていただきました。すると、本来留学生は受講することが許されていない彼らの授業を受けることを許可してくれました。結局、その内の1人の教授に親切にしていただけ、授業外でも何冊も本を貸してくれたり、また時には半年後に発行という最新の出版物もいただけたり、他の研究者の方や、その分野で活躍されている日本の教授を紹介していただけたりしました。また、縁あって他の大学の先生ともお知り合いになることができ、何回もお会いし、多くのことを勉強させていただきました。様々なことが絡み合い、知らず知らずのうちに自分の人生の方向決定に影響が与えられ、新しい目標を持つことができました。なので、あの頃就職活動をせずに良かったと思っています。

3.反省点について

法律の勉強はものすごく辛いもので、気分もブルーになり、友達との友好関係を築く時間を大量に削って読書に励まなくてはいけませんでした。それは、英会話の向上と国際交流を目標としていた私にとっては耐えられないものだったため、途中でやめてしまいました。実際にイギリスの授業に参加し、自分の限界を知り、色々なことを感じたということは何にも代え難いとても貴重な体験になりましたが、日本で法律を学ぶ学生として『派遣留学』をさせてもらっている以上、法律の勉強を続けるべきだったと思っています。

4.海外留学を目指している学生へのアドバイスについて

単位

私は留学前に単位はとっていたので、卒業を心配することはありませんでしたが、前述したようにイギリスの大学(この場合法学部)で単位を取得するということは血を吐くような努力が必要です。なので、あらかじめ単位の心配をする必要がないように手を打っておくとよいと思います。

TOEFL

TOEFLの勉強ではとても辛い時が何度もあると思います。留学中多くのことで成長しましたが、留学前の勉強を通じても、自分はすごく成長しました。私自身もともと英語が特に得意だったわけではなく、ごくごく平均的なレベルでした。最初は『TOEFLってなんて読むん?』という感じだと思いますが(ちなみに『トーフル』もしくは稀に『トイフル』と読みます)、まず、語学センターに行くことをオススメします。勉強は1人でするものだという主張は理解し、同感しますが、完全に1人だと何からどう始めたらよいのかも分からず、自分のやっていることであっているのか不安になったり、他のことに熱中している友人と比較してしまったり、誘惑に負けそうになってしまい易くなります。なので、語学センターに行き、英語を勉強している人たち、あわよくば派遣留学を目指している人たちと出逢い、お互いに励まし合える仲間をつくるのが良いと思います。支え合える仲間なくして、私は絶対にこの留学を達成することはできませんでした。派遣留学の規定レベルにおける英語学習では、このようにモチベーションさえ維持していれば、あとはおのずと様々な手段で学習し、かってに力が付いてきます。大切なことは粘り強さくらいです。一度留学を決心してしまえば、『くじけるか、くじけないか。』この2通りの答えしかありません。

その他のアドバイス

携帯電話を持っていくか持っていかないかで悩む方は多いと思いますが、私は持っていくことを強く勧めます。というのも、渡英の際、ロシア上空で機長から機内アナウンスがあり『機体に異変を発見した』ということで急遽成田空港まで折り返し、翌日の飛行機でイギリスに向かうことになってしまいました。その際、ロンドンでの宿や長距離バスなど、全て翌日に変更しなければなりませんでしたし、大学側にも報告しなければなりませんでしたが、携帯電話をもっていたのでなんとかすることができました。その他の場面でも緊急事態は無きにしもあらずなので、携帯電話は案外役に立ちます。
留学期間においてですが、先に書いたようにノッティンガム大学の留学期間は短いです。アメリカのカリフォルニア大学デイビス校に留学した友人はちょうど1年間留学していたので、イギリスにこだわらないという方、もしくは少しでも長期間留学したいと思っている方であればアメリカを選択される方が良いのかもしれません。
留学は、英語力のみでなく、多くの人との出逢いを通じて多岐にわたって知の地平を押し広げることができる素晴らしい機会です。なので、現地ではとにかく積極的に動いてください。ノッティンガム大学は生徒数30000人以上のとても大きな大学ですが、その中で出会う人たちとだけ遊んでいても限られた世界しか見ることができません。実際、帰国した今でも頻繁に連絡を取り合っている人のほとんどが学外で出会った人たちです。自分の置かれている環境に慣れたら、その外に目を向け、自分で世界を広げていくことはとても大事なことだと思います。常に新しい環境で、たくさんの出逢いや刺激を求めて行動していってほしいです。まぁ、これを読まれているみなさんには言う必要のないことですが。

最後に

自分が無事留学を終了することができたのは、親をはじめ、先生方、国際交流室の方々、周りで支えてくれていた友達など、全ての人の助けがあってこそで、自分1人では決してできなかったことです。心より深く感謝しております。
この報告書が、今後留学を考えている少しでも多くの人の情報源になりますように。