水のきれいさを保つのは
現代的なシステムだけじゃない
現地調査で知った
水辺の暮らしに感動。
Vol.1
大学院 システム工学研究科
システム工学専攻 建築コース 2年
緒方 杏香
Kyoko Ogata
建築学科・建築学コースから大学院へ進み、「建築計画研究室」に。意匠的な建造物への興味から始まり、その歴史や背景への学びを深め、現在は環境に関わることまで幅広い研究を行っている。
ゼミでは、我が国における都市の、水辺の景観まちづくりについて、歴史的背景や制度的背景を把握しながら、今後に有用な資料作成を行っています。現在の研究テーマは、「琵琶湖周辺に点在する水郷集落の水路システムと水利施設」。ここの集落の一部は日本の重要文化的景観に選定されていて、文化財保護法に基づいてまちを守ろうという活動が積極的に行われています。他にも多くの個性ある集落が点在する地域ですが、特に注目すべきは水の使い方が異なる点。その中から特徴的な集落をいくつか取り上げ、文献資料などから比較考察しています。
高島市新旭町の針江と呼ばれる集落での調査模様。実際にカバタの様子を見せてもらいました。
東近江市伊庭町にて。この集落では水路が網目のように整備されていて、子どもたちの生活に溶け込んでいました。
現地調査にも行きました。地元の方へのヒアリングや行政への聞き取りは、とても興味深いお話ばかりです。例えば、水利施設なら、自噴井を水源とする「カバタ」や、川水を引き込む「カワト」など、種類がいくつかあります。これを給・排水システムで図式化すると6つに分類でき、土地の特性に合わせて使い分けられていることなどがわかりました。自噴井のあるお宅では、その水のきれいさや美味しさに感動。そのシステムがあるおかげで水質がよくなっているケースもあり、ある資源を自分たちで工夫して有効活用されている様子を見て取れる貴重な体験でした。
そういった昔ながらの水利施設を、地元の方はフリーペーパーなどで自主的に伝え、守っていこうという活動をしておられます。建築学では、建造物の歴史や発展過程を学ぶ授業がありますが、もっと視野を広げると、それが建つ場所の価値や環境を読み解くことで、時間とともに育まれた魅力に気づくことができます。私たちにできることは、まずは住民の方々の生活や伝統を知り、現代とどう共存させていくかを考えること。古い建物だけにこだわるのではなく、日々の積み重ねにより実現する「住み続けられるまちづくり」を、全体的にとらえていく姿勢が重要だと気づかされました。
「茅葺き古民家再生プロジェクト」での活動模様(2021年)。茅葺き屋根の原料となる茅刈りのボランティアに参加しました。
SDGsと向き合うには意識を変えることが大切です。大学で古民家再生の活動にも参加しましたが、着目されないまま、誰も何も知らず衰えていくものがたくさんあることを知りました。琵琶湖の集落も、注目されることで住民の意識が変わり、そこから次のステップにつながっているという側面があります。まずは自身が育った地元に目を向けてみることもひとつかもしれません。そこから様々な地域のまちを保つ取り組みを知ることができれば、他分野とつながるきっかけにもなり、持続的な“良い循環とは何か”に意識が変わっていくのではないでしょうか。