5Gを活用した遠隔医療支援

5G通信を活用し4K映像伝送システム「LiveU」から胎児心臓エコー映像をリアルタイム伝送する実証実験 実施レポート

学校法人近畿大学(大阪府東大阪市、理事長:世耕 弘成、以下:近畿大学)、和歌山県串本町(町長:田嶋 勝正、病院事業管理者:竹村 司、以下:串本町)、株式会社NTTドコモ(東京都千代田区、代表取締役社長:井伊 基之、以下:ドコモ)は、5Gを活用した遠隔医療支援を目的とし、胎児心臓エコー映像を4K映像伝送システム「LiveU(ライヴユー)」※を用いたリアルタイム伝送する実証実験(以下、本実験)を2021年9月22日(水)に実施いたしました。

本実験は、串本町のくしもと町立病院・産婦人科と、医療設備の整った近畿大学病院(大阪狭山市:以下、近大病院)間の遠隔医療支援を行うもので、くしもと町立病院が超音波画像診断装置で撮影した胎児心臓エコーの映像を「LiveU」からドコモの5G回線を介して映像を伝送し遠隔医療支援を実施するほか、手技を行う医師の手元の4K映像も同時に伝送するなどの実用化に向けた検証を行いました。具体的には、胎児のわずか2cmほどの小さな心臓の繊細な動き、陰り、変化などを捉えた高精細なエコー映像を、約120km離れた近畿大学病院へ5Gで遅延なく伝送し、受信した映像で対面の医療と遜色なく高度な医療が提供できることを確認できました。

本実証実験の様子

くしもと町立病院での様子

くしもと町立病院での様子

くしもと町立病院での様子

くしもと町立病院での様子

近大病院での様子

近大病院での様子

近大病院での様子

検証項目であった、遠隔診断に適した高精細な胎児心臓エコー映像を問題なく送受信できること、手技中の病院間で円滑なコミュニケーションをするための環境を構築できたことを確認しました。

対応医師の評価コメント

串本町:病院事業管理者 医師 竹村 司

くしもと町立病院は、地域の中核病院として、また災害発生時には新宮医療圏における災害支援病院として、年間外来延患者数約5万人、入院延患者数約3万人の診療・看護を行うとともに、二次救急医療を提供しています。地域医療の疲弊による体制維持のあり方が社会的にクローズアップされる中、都市部から遠く離れた紀南地域では医師不足が深刻な状況となっており、特に本州最南端に位置するくしもと町立病院においては、医師だけでなく看護職や技術職の確保についても病院運営上の最重要課題の一つとなっています。今回の5Gを用いた実証実験により、医療環境が充実している都市部から遠距離にあっても、優れた画像の送信と技術支援が可能であることが証明され、これは周産期医療に限らず、今後の医療過疎地と都市部の医療格差を埋める有効な手段となるものと思われます。また近畿大学医学部と連携し、医学部生や臨床研修医の地域医療教育研修の教育機関としての役割も担っていることから、医療面だけでなく、臨床研修の実地訓練によるスキルアップや医学教育の遠隔的指導に対しても応用可能な優れたツールの一つとなるものと思われます。

くしもと町立病院:小児科 医師 有馬 智之

近年、胎児エコー検査の精度は向上しており、都市部では心臓に奇形がある胎児は出生前に診断することが可能となり、出生後すぐに高度な医療を受けられる体制が確立されています。しかし、串本町のような医療過疎地では専門医や熟練医の不足などから、都市部と同レベルの検査や医療を受けることが難しく、多くのケースは、出生後に異常を発見されてから初めて診断されます。この時間の差により、出産直後の新生児の生命に関わる事案も少なからずあることから、早期に診断できれば、救える命も増えてくると考えます。今回の5G通信を活用した胎児心臓エコーの実証実験では、都市部の専門医の検査・診察を地域の医師を通してリアルタイムに受ける事が出来る実証がされました。これにより、胎児心臓エコー検査のみならず、その他の医療分野でも都市部と地域における医療連携が期待でき、今後の地域における医療格差の是正につながる可能性が見えました。

近畿大学医学部:小児科学教室 医師・准教授 稲村 昇

今回5Gを使用した胎児心臓の遠隔診断を体験させていただきました。
第一に5Gを使用した動画像が数センチの大きさで1分間に150回も動く胎児心臓の構造をリアルタイムに診断できる動画像であるかを確かめました。くしもと町立病院からの胎児心臓の動画像はその画像解像度、フレームレートともに実際ベットサイドで行っている胎児心臓超音波検査と同等の動画像でした。
第二にくしもと町立病院医師のエコー操作を近畿大学からの指示に沿ってエコー操作が可能かを確かめました。医師のエコー操作が時間差なく把握できたため、適切な画像を描出するための指示がリアルタイムで適切に出せました。この結果、胎児心臓に精通していない医師でも診断に必要な断面を指示通り描出することができました。
第三に妊婦に正確に検査内容の説明が可能であるかを確かめました。くしもと町立病院の妊婦に近畿大学から心臓の模型を使用しての細かな説明ができたことで、理解が深まりました。
以上の3点はこの実証実験の大きな成果であると考えます。
遠隔診断は患者様の移動が無くなり、空間的な距離がぐっと縮まります。次に、時間の壁もなくなるため専門医の診察を受けるために移動する時間が節約されます。近畿大学で行っている遠隔診断は①専用回線と専用機器を使用した遠隔診断(初期費用は高いが技術は不要)②クラウドを使用した遠隔診断(初期費用は抑えられるが技術が必要)を行っています。両者とも長所と短所があり胎児心臓の遠隔診断の普及の足かせになっている面もあります。今回の5Gによる遠隔診断は5Gがどこでも使用できる環境になれば、スマートフォンが2台あればできるシステムです。初期費用は不要で、専門的技術は不要であるため、これまで遠隔診断方法を補完する有効なシステムになるのではないかと考えています。

今後の取り組み

本実験の実施は、今後、医療機関が連携し遠隔地の医療を支援することで、さらに充実した安心・安全な医療を展開できることを意味しています。また、このような先進技術を医療現場に展開することによって、コロナ禍においても質の高い医療を、遠隔地を含む全国の他の医療機関に展開する礎になることも期待できると考えております。
本実験に参加した近畿大学、近畿大学病院、串本町、くしもと町立病院とドコモは、今後、「LiveU」医療モニタープログラムのスキームに則り、産婦人科ならびに小児科協同チームによる超音波画像診断装置を中心とした高精細医用映像機器と、5Gサービスを活用し、的確な医療提供の実現、さらに過疎地の周産期医療における診断・治療における常用的な遠隔医療提供に向けた検討を進め、次世代の医療向けソリューションの創出や、新規ビジネスモデルの可能性を探ってまいります。

  • ドコモが5Gを活用した映像伝送ソリューションの医療機関向けモニタープログラム事業において推奨するソリューション

実証実験の概要

1.実施内容

超音波画像診断装置で撮影した胎児心臓エコーの映像および手技風景を、5G通信を介して4K映像伝送システム「LiveU」から、近畿大学病院小児科専門医へリアルタイム映像伝送を行う実証実験を行います。

検証項目

  1. 5G通信を使い、高精細な胎児心臓エコー映像の送信
  2. 受信した映像の劣化、また映像遅延度合いの検証
  3. 上記1,2環境下における遠隔診断支援実施、および手技映像確認の実現可否
  4. 手技中の病院間におけるコミュニケーション状況の確認

想定される今後の活用方法

  • 遠隔地からの胎児の様子をリアルタイムに診療支援することによる医療体制の確保
  • 高精細映像を活用した胎児の精細状況の把握や不測症例の発見

2.使用機器

  • 超音波画像診断装置(くしもと町立病院使用)
  • LiveU(映像送信機、受信機)2台
  • 4Kハンディタイプカメラ(俯瞰映像撮影)
  • ドコモの通信回線(5G回線)
  • 手技中コミュニケーション用TV会議システム

3.機器構成イメージ

機器構成イメージ

4.実験実施日

2021年9月22日(水)

5.実施医療機関(場所)

近畿大学病院 小児科 胎児心エコー検査室
くしもと町立病院 産婦人科 診察室

6.役割

医療機関・企業名 役割
近畿大学、近畿大学病院
  • 実験内容検討(主)/調整
  • 手技確認、遠隔診察(映像受信)
  • 医師間コミュニケーションシステム提供
  • 実証結果レポートの作成/公表
串本町、くしもと町立病院
  • 実験内容検討(副)/調整
  • 手技実施(映像送信)
  • 被験者調整
ドコモ
  • 映像伝送機器(LiveU)の提供
  • 通信回線(5G)の提供
  • 携帯端末の提供
  • 実証結果レポート作成サポート

7.実証実験対応医師

近畿大学医学部 小児科学教室
准教授 稲村 昇
助教 今岡 のり
くしもと町立病院
産婦人科医師 木村 憲三
小児科医師 竹村 司(病院事業管理者)
小児科医師 有馬 智之

4K対応モバイル映像伝送ソリューション「LiveU」の概要

「LiveU」は、高画質映像の低遅延伝送に対応する小型モバイル中継装置です。
HEVC、4K画質に対応した次世代モバイル中継装置で、高品質な素材伝送、低遅延を実現します。

4K対応モバイル映像伝送ソリューション「LiveU」の概要