近大理工通信
令和4年度 近大理工通信(第2号)
令和4年10月7日発行
コラム
近大生が組み立てた超小型人工衛星「SpaceTuna1(宇宙マグロ1号)」が宇宙へ
電気電子通信工学科 前田 佳伸准教授、理学科物理学コース信川 久実子講師と学生らの研究グループは、株式会社エクセディと共同で、10 cm 角の超小型人工衛星「SpaceTuna1(宇宙マグロ1号)」を開発し(写真1)、2022年6月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ正式に引き渡しが完了しました(写真2)。今後ロケットで国際宇宙ステーション(ISS)に運ばれたのち、「きぼう」日本実験棟から放出予定です。
「SpaceTuna1」には、前田准教授と日本カーバイド工業株式会社が共同開発した再帰性反射材シートが装着されています。打ち上げから約1年の運用期間中、近畿大学と共同研究を行なう国立研究開発法人 情報通信研究機構 宇宙通信システム研究室協力のもと、同研究室の光地上局の大型望遠鏡から、高度400 kmの衛星へレーザーを照射します。望遠鏡の受光器で反射光を観測することで、反射強度の基礎データを実測し、宇宙空間における再帰性反射材の劣化具合をモニターする計画です。
(理学科物理学コース 信川 久実子)
京都大学基礎物理学研究所において研究会を開催
2022年7月19-22日に、京都大学基礎物理学研究所において基研・理研iTHEMS研究会「格子上の場の理論と連続空間上の場の理論」を主催しました。京都大学基礎物理学研究所は国際共同利用・共同研究拠点に指定されており、毎年多くの国際会議・研究会が開催されています。また理研iTHEMSは数理科学が関わる研究を本研究会は新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえハイブリッド形式で行われ、現地参加者70名程度、リモート参加者を含めると186名以上もの参加者が集まりました。
本研究会のテーマである場の量子論は素粒子や物性現象を記述する理論体系です。特に主要テーマとなった格子上の場の理論は数学的に良く定義された定式化であり、今回は素粒子論、物性論、数学の専門家が集まって、解決すべき問題や現象について議論を行いました。
本研究会では9件の招待講演と21件の一般講演が行われ、本コースの三角樹弘准教授は「格子フェルミオン再考 -グラフ理論と位相不変量の立場から-」というタイトルで招待講演を行いました。研究会の講演録画、講演スライドは以下の研究会webpageから見ることができます。
(理学科物理学コース 三角 樹弘)
ナノ学会第20回大会が近畿大にてオンライン開催
ナノ学会第20回大会が2022年5月20日~5月22日の3日間、近畿大にて開催されました。ナノ学会はナノサイエンス・ナノテクノロジーの研究者交流フォーラムとして20年以上活動を続けてきており、その大会となります。
残念ながら新型コロナウイルスの影響によりオンライン開催となりましたが、3日間、口頭発表、ポスター発表、特別講演など、最新の研究成果の発表と活発な質疑応答が行われました。大会の運営は若林知成 実行委員長をはじめ、化学コース、応用化学科、エネルギー物質学科の教員が委員を務めました。
ナノ学会第20回大会実行委員会
役職 氏名 所属
実行委員長 若林 知成 理学科化学コース
実行副委員長 松本 浩一 理学科化学コース
実行委員 松尾 司 応用化学科
実行委員 大久保 貴志 エネルギー物質学科
実行委員 中井 英隆 エネルギー物質学科
実行委員 仲程 司 応用化学科
実行委員 森澤 勇介 理学科化学コース
実行委員 鈴木 晴 理学科化学コース
実行委員 杉目 恒志 応用化学科
実行委員 兵藤 憲吾 理学科化学コース
次の大会は北海道大学のお世話で、函館市民会館にて2023年5月11日(木)~13日(土)の期間に開催予定です。
(理学科化学コース 若林 知成)
学科PR用パンフレットの作成について
2022年4月、いよいよエネルギー物質学科がスタートいたしました。昨年末から始まった入試シーズン、果たしてこの学科を受験生は志願してくれるのだろうか、と不安な日々を過ごしましたが、お陰様で110名強の新入生を迎え入れることができました。
エネルギー物質学科の広報活動は、開設の前年から徐々に行われました。学部案内での教員コメントの掲載や、理工ホームページにおける特設ページの作成など、様々な形でご配慮頂きました。その一方で、情報学部新設が各種メディアにおいて華々しく取り上げられ、新学科はその陰に隠れてしまった、という印象は拭えません。もちろん、客観的に見れば、学部新設と学科新設では取り上げられ方に違いがあって当然です。となれば、あとは地道な活動しかありません。
そこで、まずは学科独自のパンフレットを作成致しました。「エネルギー物質学科×SDGs」と題し、先生方のご研究とSDGsの関連について紹介したものです(図1)。SDGsのロゴのカラフルさも相まって、非常に良いものが出来た、と思っております。
ところが、色々な場面において「文章が多く、これをしっかり読み込んでくれる受験生がどれだけいるのだろうか」「何を学べるのか、今一つ伝わりにくい」というコメントを頂戴しました。最先端の研究を紹介する際、それがどのように社会に貢献するかを説明するためには、どうしても言葉が多くなります。逆に、短く分かりやすく、を求めると研究内容がぼやけがちです。さらに、受験生は「エネルギーについて学ぶとは、どういうことなのか」を知りたいはずで、その気持ちに寄り添えていないのではないか、と考え始めました。
話は前後して恐縮ですが、エネルギー物質学科では、まず物理学・化学・生物学の基礎を学び、それらを“社会のエネルギー”・“エネルギー技術のためのマテリアル”・“生命のエネルギー”に結びついていきます。これこそが、我々が伝えたい「エネルギーについて学ぶこと」です。さらに、「エネルギーには物理学・化学・生物学すべてが関わっている」ということや、「物理が好きな人も、化学が好きな人も、生物が好きな人も、得意なものを将来に活かせる」というメッセージも伝えたい・・・そしてパンフレットver.2の作成が始まりました。
新たなパンフレット作成にあたっては、①見たことがありそうな物をイラストにすること、②文章を極力避けること、③エネルギー技術と物理学・化学・生物学の結びつきを明示すること、を心掛けました。そして何より「これを見ている受験生たちが主役」であることを意識致しました。入学センターにもご協力頂き、分かりにくい表現、説明しにくい項目を一つ一つ無くしていきました。
幸い、高校の先生方からは非常に好評で、理系クラス全員に配布したい、というご要望も頂きました。また、オープンキャンパスで配布した際にも、熱心に目を通している姿が多く見られます。
ここまで書きますと、あたかもパンフレットver.1を否定しているようですが、実はそうではありません。パンフレットver.1とパンフレットver.2は相補的なものです。キャッチ―なver.2は、エネルギーへの興味を喚起するのに役に立ちます。一方、ver.1は、いずれこんな研究をするのか、ということをイメージしてもらうのに適しています。両者を上手く活用しつつ、学科のアピールにつなげていきたいと考えております。
最後に、パンフレット作成にご協力頂きました理工学部学生センターの皆様、入学センターの皆様に、この場をお借りしてお礼申し上げます。
(エネルギー物質学科 須藤 篤)
エネルギー物質学科に着任して
皆さんこんにちは。2022年4月にエネルギー物質学科に着任した今野大治郎と申します。専門は生化学・分子生物学・細胞生物学で、特に我々人間を含む哺乳類の正常組織や腫瘍組織に存在する幹細胞(stem cell)の分化を制御する分子メカニズムの解明や、それら細胞の分化状態を高感度に検出する手法の開発を行っています。
さて、皆さんはエネルギーと聞いて何をイメージするでしょうか?恐らく最初に思い浮かぶのは原子力や太陽光発電といった電力ではないでしょうか。しかし実は我々の最も身近なところにもエネルギーは存在します。そう、生命のエネルギーです。我々人間は呼吸というプロセスにより60兆個もの細胞のほぼすべてに酸素を行き渡らせ、細胞呼吸によりブドウ糖を燃焼させることで生命活動に必要なエネルギーを生み出します。そのエネルギー産生能は平均して2mJ/g/secほどであり、なんとその値は太陽の1万倍(!!)にもなります。ではなぜ生命はそれだけ膨大なエネルギーを必要とするのでしょうか?その答えの1つは、我々の身体は常に再生と破壊を繰り返しているという事実にあります。昨日のあなたと今日のあなたは物質的に全く同じではなく、死を迎えるまで永遠に入れ替わり続けます。そして、これら再生と破壊というプロセスがあるからこそ、我々生命体は熱力学の第二法則に抗って秩序を維持することが可能となります。このように生命は非常に「動的」であり、それを支えるのはエネルギーの産生とその流れであることは容易に理解していただけるかと思います。一方、現代科学の潮流を見てみると、分子間相互作用などの物質的繋がりのみを軸とした生命機械論が全盛となっています。しかしどんなに精巧な機械であっても、エネルギーの秩序だった産生と供給が無ければただのガラクタであり、生命を真に理解し利用するためには、エネルギーという視点で生命現象を見つめ直すことが必要不可欠です。
偉そうなことを書いてしまいましたが、私自身の研究を振り返ると、御多分に洩れず分子間相互作用や遺伝子発現などで細胞分化機構を理解するといった「生命機械論」の研究に多くの時間を費やしてきました。しかしこれらの研究から得たものも少なくありません。特に生体分子の検出に用いる抗体の作製法について学生時代から地道な開発を続け、DNA/RNA免疫法による機能性モノクローナル抗体の作出や、1細胞単離技術を用いた高親和性ウサギ組換え抗体の作出に成功してきました。これらの技術は大阪のベンチャー企業から受託研究という形でサービスを提供しており、製薬会社を含む多くの企業から好評を得ております。これらの技術開発については本学での研究活動の中心課題の1つとして取り組む所存であり、学生達にもバイオ物作りの楽しさを伝えていきたいと思っています。
一方、これらの技術開発と共に私の心を踊らせるのは、やはり前述のエネルギーという視点から見た新しい生命科学研究です。これらの研究はまだ着手したばかりで手探り状態ではありますが、新設学科の刺激的な環境を原動力とし、あっと驚くような“おもろい”研究をしたいと密かに企んでおります。少しでもご興味持たれた方はどなたでもどうぞお気軽にご連絡ください。一緒に“おもろい”サイエンスを楽しみませんか!?
(エネルギー物質学科 今野 大治郎)