近大理工通信

令和6年度 近大理工通信(第4号)

令和6年10月3日発行

コラム

「アラン・ショーン生誕100年記念国際シンポジウム - ジャイロイドはどこにでも」開催および公開講演会

このたび、アラン・ショーン博士の生誕100年を記念して、2024年11月19日から11月22日まで、「アラン・ショーン生誕100年記念-ジャイロイドはどこにでも」と題した国際シンポジウムを近畿大学にて開催します。

アラン・ヒュー・ショーン博士は、無限に接続された三重周期極小曲面であるジャイロイドの発見で知られるアメリカの物理学者、計算科学者でした。博士の発見したジャイロイドは、蝶のはねや石鹸分子の集合体にも見られる構造で、数学、物理学、化学、生物学、材料科学、機械工学、建築学、医学など幅広い分野で研究されています。

会議初日11月19日火曜日午前に公開講演会(チュートリアル講演会、無料)を11月ホールで開催いたします。幅広い分野の総合理工学研究科大学院生や卒業研究生にとっても有益な講演となっています。

チュートリアル講演(公開講演会・登録不要)
・    ランダル カミエン (ペンシルバニア大学、アメリカ物理学会雑誌編集主幹) - 物質幾何学
・    スティーブン ハイド (シドニー大学、オーストラリア国立大学、豪州アカデミー) - 3重周期極小曲面

以下国際会議の詳細
基調講演
・    ミファノイ エバンス (ポツダム大学、ドイツ) - ジャイロイドのトポロジーと幾何学
・    グレゴリー グレイソン (マサチューセッツ大学、米国)- ジャイロイドの物理
・    ウルリッヒ ヴィースナー (コーネル大学、米国) - ジャイロイドの材料科学
・    マティアス サバ (フライブルグ大学、スイス) - ジャイロイドの光学
招待講演
・    下川 航也(お茶の水大学) - トポロジー
・    ヤコブ キルケンスゴール(コペンハーゲン大学) - 双曲幾何学
・    シャンビン ヅァン(シェフィールド大学 英国) - ジャイロイド液晶
・    一川 尚広(東京農工大学) - ジャイロイドのプロトン伝導
・    ロンミン ホ(清華大学) - ナノジャイロイドの構築
・    アンシャン シ(マクマスター大学) - ジャイロイド高分子理論
・    阿波賀 邦夫(名古屋大学) - ジャイロイド分子科学
・    フィリップ シェーンへファー (ミシガン大学、米国)- ジャイロイドの分子シミュレーション
・    ジャスティン リヤドロ (住友化学) - ジャイロイドの磁性
・    ウチア コバレフスカ (ワルシャワ大学、ポーランド) - ジャイロイドの細胞膜
・    ヴィノードクマール サラナサン (クレア大学、インド) - ジャイロイドの生物進化
その他、一般講演17件、ポスター発表20件
サマリーおよびディスカッションリーダー
・    ガード シュレーダーターク(マードック大学・教授) - あまねくジャイロイド

このシンポジウムは、豊田理化学研究所、サイモンズ財団(The Simons Foundation)、および近畿大学の支援により実現しました。

WEBサイト: https://www.phys.kindai.ac.jp/gyroidiseverywhere/

(理学専攻/物理学分野/ソフトマター物理学研究室 堂寺知成)

令和6年度新規開講のエネルギー物質生物学実験に関する話題

酵素活性測定実験の様子
酵素活性測定実験の様子
近大マグロを用いた実験の様子
近大マグロを用いた実験の様子
本実験で提供いただいた近大マグロ
本実験で提供いただいた近大マグロ

 エネルギー物質学科は、化学、電気電子工学、機械工学、生命科学の4分野を融合した3つの領域(次世代インフラ、ライフデバイス、マテリアル創製)から構成されています。学生は2年次までに物理、化学、生物の基礎を学んだのち、3年次よりそれぞれが希望した領域に分かれて各領域の専門分野を学んでいきます。さらに、3年前期に行われる研究室配属の後、各研究室での研究活動を通してエネルギー関連分野のエキスパートとして成長していくことになります。
 本学科は上記のような経緯から、物理学、化学、生物学の各分野をベースとした基礎・専門科目に加えて、今後必須の情報系の授業科目も含めた他学科にはない幅広い分野を学ぶことができるカリキュラムとなっています。実験科目についても、1年前期に基礎物理学実験と基礎化学実験、1年後期にエネルギー物質化学実験、2年前後期にエネルギー物質物理学実験、3年前期にエネルギー物質生物学実験を履修することで、2年半かけて物理学、化学、生物学3分野の実験を学習するカリキュラムとなっています。現在、本学科は開設3年目ということで、本年度初めてエネルギー物質生物学実験を開講しました。
 このエネルギー物質学生物学実験は、須藤篤先生、今野大治郎先生、中澤直高先生と川下の4名で担当しており、実施内容は須藤先生がアミノ酸の性質、糖類の加水分解、および植物色素の分離などの生化学実験、今野先生がタンパク質の定量、電気泳動による分離、可視化、中澤先生がマグロを用いたDNA抽出、PCRによるDNAの増幅、電気泳動による分離、近縁種の判別、川下が酵素反応の測定と解析およびバイオインフォマティクスとなっています。本実験では学生を4つのグループに分けたうえで、それぞれの教員のテーマで3週ずつ実験を行い、それを4教員分ローテーションして計12回分実施しました。
 実験実施に際し、学生の生物学関連の知識が不足していることが想定されたため、第1回目の授業では、全体への注意点の連絡後、各テーマについて担当教員から簡単な講義とテストを行い、背景知識の定着に努めました。
 2回目以降の実際の実験では、学生にとっては慣れない生物学実験ではあったものの、近大マグロからのマグロ肉の採取などについて楽しそうに実験を行っていました。また、1廻り目に担当した学生よりも2廻り目以降に担当した学生の方が、他の実験内容を通して生物学系の実験操作に慣れてきたのか、初めての実験内容であっても操作がスムーズに進んで早く実験が終了した班も多くなるなど、経験による成長を感じられました。
 また、実施した実験に対する知識の定着を図るため、最後の2回は実験内容に関連したプレゼンテーションとしました。プレゼンテーションの課題として、各教員が学生に理解してもらいたいことを計28課題取り上げ、学生を28個の班に分けたうえで指定した課題に取り組み、1週目にプレゼンテーションの準備、2週目に発表を行いました。プレゼンテーションの時間が短い中で頑張って発表していたように感じました。
 本科目は全く初めての実施ということで色々大変なこともありましたが、学生が楽しそうにしていたところは引き続き継続し、生物学方面にも興味を抱いてもらえるよう、2年目以降の実施につなげていければと考えております。

(エネルギー物質学科 川下理日人)

サイエンスのるつぼ 〜理工学部 エネルギー物質学科への着任に際して〜

海外から招聘した大学教員と本研究室の学生さんとの交流を撮影した一コマです。シンガポール、チリ、イスラエルなどから、世界的にみてもトップレベルの若手研究者を毎年近畿大学に招聘し、近畿大学の学生さんと交流していただいています。
海外から招聘した大学教員と本研究室の学生さんとの交流を撮影した一コマです。シンガポール、チリ、イスラエルなどから、世界的にみてもトップレベルの若手研究者を毎年近畿大学に招聘し、近畿大学の学生さんと交流していただいています。
実験中の一コマです。見たこともないような現象を誰かが見つけると、自然と学生・教員が集まり議論が始まります。教員としては非常にエキサイティングな環境です。
実験中の一コマです。見たこともないような現象を誰かが見つけると、自然と学生・教員が集まり議論が始まります。教員としては非常にエキサイティングな環境です。

「僕らが学んでいるそれぞれの科目ってどこかで繋がるんじゃないかなぁ」、これは私が高校時代に友人から言われて今でも心に残っているコメントです。大学に入り様々な学問に触れるにつれて「彼が言っていたのはこういうことだったのか」と感じることが増え、学問間の繋がりの先に新しい世界が広がっている面白さを感じながら研究活動を進めるうち、現在の場所に辿り着きました。

申し遅れましたが、今回新任教員のコラム執筆の機会を頂いた中澤直高と申します。新任教員と言っても着任したのは、2022年4月。すでに着任してから約2年経過しておりますので、新任教員と言っていいものか、、、。専門は、“メカノバイオロジー”という生命科学を基盤とする領域です。「メカノバイオロジーなんて聞いたことないな」、そんな風に思われる方々が大半ではないでしょうか。メカノバイオロジーとは、生命を取り巻く“機械的な因子”が分子(生命科学で“分子”という言葉は主に生体高分子を指す言葉になるかと思います)、細胞、組織レベルでどのように生命の仕組みに関わっているのかを明らかにする学問です。私たちの研究室では、特に脳が形成される仕組みやがん細胞等の異常な細胞と正常な細胞との違いを理解することを目的として、生体内の機械的な因子の中でも細胞内で機械的な力が発生する仕組みや細胞外環境の機械的な性質に着目して研究を進めています。

学位を取得してから近畿大学に着任するまで、 シンガポールと京都にある大学の研究所で研究活動をしてきました。それらの研究所の共通点は、“異分野の研究者がいつも身近にいる環境”であったことです。自分とバックグラウンドの異なる研究者が身近にいることで、異分野の面白さを理解しようと思う遊び心、異分野の考えや技術と自分の研究の繋がりを見つける探究心が強くなりました。「このような環境で学部・学科レベルの教育をしようとする場所があったらいいな」、そんなことを思っていた矢先、いいご縁があり理工学部エネルギー物質学科への着任が決まりました。エネルギー物質学科は、エネルギーをキーワードに分野横断的な教育・研究の実践を目指す、まさにサイエンスのるつぼとも言える理工学部の新学科です。化学、電気電子工学、機械工学、生命科学等、様々な専門をもつ教員が所属しており、所属した学生は物理、化学、生物の基礎を学んだのちにに3つの領域(次世代インフラ、マテリアル創製、ライフデバイス)のいずれかを選択し、専門分野を深めていきます。このような学際的な学科は私がまさに希望していた教育・研究環境であり、おかげさまで着任してから非常に充実した生活を送ることができています。同じ学科の先生方は、異なる分野の教育・研究を尊重し、好奇心をもちながら面白い点を見つけようと考えている教育・研究者ばかりで、いつも楽しくお互いの研究や学科の運営について議論させていただいています。エネルギー物質学科の一期生が今年度で三年生になり、研究室の配属が始まりました。このような学際的な環境で学んだ学生達がどのような活躍を見せてくれるのか、一緒に研究するのが非常に楽しみです。また、応用化学科の先生方のご厚意で私の研究室には応用化学科から卒研生が参加しています。応用化学科からの卒研生は、私の研究室でこれまで培ってきた知識・実験手法をそのまま適用できない場面に遭遇することが他の研究室に比べて多いかと思います。しかしながら、多くの卒研生は新たに生命科学分野の知識を学ぶことを厭わず、卒業研究の内容をゼロから私と一緒に立ち上げています。エネルギー物質学科の学生達にとって、このような先輩方と研究する経験も必ずやいい影響があるのではないかと思っております。

私が現在抱いている将来の野望は、このような学際的な新学科発の新たな学問分野を創出し、そのようなマインドを総合大学である近畿大学に広げることです。この大きすぎる野望を叶えるべく、近畿大学の学生さんと共に一つ一つ目の前の課題に取り組んでいきたい、と考えております。エネルギー物質学科、理工学部、近畿大学に貢献できるよう、教育・研究に励む所存ですのでご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

(エネルギー物質学科 中澤直高)