近大理工通信

令和6年度 近大理工通信(第4号)

令和6年10月3日発行

教育・研究

「大学における国際会議誘致開催促進事業」に採択(代表:田坂浩二准教授)

田坂浩二准教授を代表者とする研究グループが観光庁の「大学における国際会議誘致開催促進事業」に採択されました。大学における国際会議誘致・開催を促進するため、「将来の誘致案件獲得」や「新規国際会議の創出・将来の主催者の育成・開催ノウハウ向上」を目的とする事業であり、事業期間は令和7年2月までです。採択事業名は「多重ゼータ値とモジュラー形式に携わる研究者の国際的ネットワーク形成促進と若手主体の国際シンポジウムの新規立ち上げ」です。

観光庁  https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo09_00016.html 

(理学科数学コース 井原健太郎)

信川久実子 講師が携わるX線分光撮像衛星XRISMが打ち上げ成功!

JAXA XRISMチームから表彰を受けた信川講師(左)、伊藤さん(中央)、青木さん(右)
JAXA XRISMチームから表彰を受けた信川講師(左)、伊藤さん(中央)、青木さん(右)

 2023年9月7日に、X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)がH-IIAロケット47号機で種子島宇宙センターから打ち上げられました。理学科物理学コースの信川 久実子 講師は、XRISMに搭載されている軟X線撮像装置(Xtend:エクステンド)の開発に携わってきました。Xtendは、X線望遠鏡とX線CCDを組み合わせた撮像装置で、満月よりも大きな視野を一度に観測できるのが特長です。
 JAXA XRISM チームは、開発に特に顕著な貢献があった若手研究者や学生を対象に表彰を行っており、信川講師は2022年10月と2023年6月に「Outstanding contribution award for young researchers」の表彰を受けました。また青木悠馬さん(総合理工学研究科 理学専攻 物理学分野 博士後期課程1年)と伊藤耶馬斗さん(同分野 博士前期課程2年)もXtendの開発に貢献し、青木さんは2022年10月に「Outstanding contribution award for groups」、2023年6月に「Outstanding contribution award for students」の表彰を受け、伊藤さんは2023年6月に「Outstanding contribution award for groups」の表彰を受けました。さらに2024年2月には、JAXAから本学へ感謝状が送られました。
 XRISMは2024年3月から定常運用に移行しており、2024年8月頃からは世界中の研究者からの観測提案に基づいた観測を開始します。信川講師の観測提案は、「最も優先順位の高い観測」の1つとして採択されています。今後はXRISMによる新しい科学成果を近畿大学から創出していきます。

(理学科物理学コース 信川久実子)

遠方宇宙におけるダークマターの小さな疎密構造を初検出


図1. 検出されたダークマターの疎密。オレンジ⾊が明るいほどダークマターの視線方向の質量密度が⾼く、暗いほど質量密度が低い。青白⾊は、アルマ望遠鏡が観測した見かけのクエーサーの電波画像を表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)

図1. 検出されたダークマターの疎密。オレンジ⾊が明るいほどダークマターの視線方向の質量密度が⾼く、暗いほど質量密度が低い。青白⾊は、アルマ望遠鏡が観測した見かけのクエーサーの電波画像を表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)
図2. 重⼒レンズ効果の概念図。画像中央の天体は大質量銀河、橙色が銀河間のダークマターの塊、薄黄色が大質量銀河内のダークマターの塊を表している。光源であるクエーサーが発した電波は、大質量銀河による大きな重力レンズ効果とダークマターの塊によるわずかな重力レンズ効果を受けるため、経路を曲げながら地球に到達する。(Credit: NAOJ, K.T. Inoue)
図2. 重⼒レンズ効果の概念図。画像中央の天体は大質量銀河、橙色が銀河間のダークマターの塊、薄黄色が大質量銀河内のダークマターの塊を表している。光源であるクエーサーが発した電波は、大質量銀河による大きな重力レンズ効果とダークマターの塊によるわずかな重力レンズ効果を受けるため、経路を曲げながら地球に到達する。(Credit: NAOJ, K.T. Inoue)

ダークマターは「冷たい」か?
様々な宇宙観測から宇宙の大部分の質量は、光って見えない謎の物質ダークマターで占められていると考えられています。しかし、ダークマターの正体は未だ解明されていません。もし、ダークマターが素粒⼦ならば、宇宙膨張により、宇宙の密度が十分下がると、ダークマター粒子は他の粒⼦と出会うことがなくなるため、通常の物質の運動とは異なる独⽴した運動をするようになります。このとき、通常の物質に対して光の速さより⼗分⼩さい速さで運動するダークマターを「冷たいダークマター」と呼びます。宇宙の物質(=通常の物質+ダークマター)は宇宙初期においてごくわずかな疎密構造を持っていたと考えられていますが、「冷たいダークマター」粒子は通常の物質に対してほとんど動かないため、元々あった物質の疎密構造(むら)を壊すことができません。「冷たいダークマター」粒子が密になっている部分は重力が強いため、時間経つにつれ、さらに密になって成長していきました。一方、水素やヘリウムなどの通常の物質は圧力を持っているため、その反発力により、一定の密度になると構造の成長が止まってしまいます。しかし、「冷たいダークマター」は圧力を持っていないため、どんどん密になって成長し、塊になることが可能です。現在の定説では、この塊になった「冷たいダークマター」粒子が周りにある⽔素やヘリウムを引き寄せて、星、銀河、銀河の集団といった構造が小さいスケールから階層的にできたと考えられています。これを裏付けるように宇宙観測からダークマターは銀河や銀河団の周りに群がっていることがわかっています。しかし、ダークマターが銀河より小さい疎密構造を持っているかどうかは良く分かっていません。もし、銀河より小さいダークマターの塊がないことが分かれば、「冷たいダークマター」説は間違っていることになります。ダークマターの正体が、他の粒⼦と出会うことがなくなった時、通常の物質に対してわずかに光より遅い速さで運動する「温かいダークマター」粒子であれば、銀河より小さい疎密構造はダークマターの運動によって壊すことができます。そのため、銀河より小さいダークマターの塊がないことを説明することができます。これを「温かいダークマター」説といいます。「冷たいダークマター」説、「温かいダークマター」説どちらが正しいのか決めるためには、銀河より小さい疎密構造があるかどうかを調べれば良いことになります。

重力レンズクエーサーの電波観測
遠方宇宙におけるダークマターの疎密構造を探るため、私たち研究チームは、世界最大級のアルマ望遠鏡で、地球から110億光年の距離にあるクエーサーMGJ 0414+0534が放つ電波(サブミリ波)を観測しました。クエーサーとは、活動的な巨大ブラックホール「活動銀河核」をもつ銀河を指し、MGJ 0414+0534は、「重力レンズ効果」を受けている珍しいクエーサー(重力レンズクエーサー)としても知られています。MG J0414+0534と地球との間に存在する大質量銀河を包み込むダークマター粒子とその中の星やガスによる重力が、レンズのようにクエーサーが放つ光や電波の経路を曲げ、本来は1つのクエーサー像が見かけ上、4重に分裂してみえています。そのような効果を重力レンズ効果と呼んでいます。重力レンズ効果が強いと、4重像の個々の像は本来の像に比べ大きく引き延ばされて見えるのです。4重像の電波の強さと拡がった像の形状を、他の波長(センチ波、赤外線)で観測されたデータとも照らし合わせて精密に調べた結果、4重像の位置や形は、MG J0414+0534と地球との間に存在する大質量銀河の重力レンズ効果のみから計算されるものとはわずかにずれており、電波の経路の近くにある小さなダークマターの疎密構造による重力レンズ効果が働いていることを示していました。宇宙論的なスケール(数百億光年)に対して⼗分小さい3万光年程度の小スケールにおいても、ダークマターの密度に空間的なゆらぎがあることが分かったのです(図1)。この結果は、「冷たいダークマター」説の理論的な予測と一致するものでした。その予測とは、銀河内だけでなく、銀河と銀河の間の宇宙空間にもダークマターの小さな塊が多数あるというものです(図2)。今回検出した小さなダークマターの疎密構造による重力レンズ効果は非常に小さいため、単独で検出することは極めて困難です。しかし、手前の大質量銀河による重力レンズ効果とアルマ望遠鏡の高い解像度を組み合わせることによって、初めてその効果を検出することができました。

今後の展望
ではこれで「冷たいダークマター」説が確定したといって良いのでしょうか。答えはノーです。私たちの結果は「冷たいダークマター」説を支持していますが、完全な確証があるわけではありません。まず、検出された疎密構造は本当に銀河と銀河の間にあるのか、それとも重力レンズとして働く大質量銀河の中にあるのか分かっていません。実は最近の観測によると、地球に比較的近い銀河の中にあるダークマターの小さな塊の数は「冷たいダークマター」説の予測する数よりも多すぎることが分かりつつあり[Homma+2024]、謎は益々深まっています。もし、その結果が本当だとすれば、「冷たいダークマター」説は間違っており、今回、検出されたダークマターの小さな塊は重力レンズとして働く大質量銀河の中にあるのかもしれません。私たちはより多くの重力レンズクエーサーをアルマ望遠鏡で観測する計画を進めており、この問題に対して近い将来解答が得られるのではないかと期待しています。

(2023年9月7日、近畿大学、国立天文台 合同でプレスリリース)

論文タイトル: “ALMA Measurement of 10 kpc-scale Lensing Power Spectra towards the Lensed Quasar MG J0414+0534”
著者:井上開輝(近畿大学)、峰崎岳夫(東京大学)、松下聡樹(台湾中央研究院)、中西康一郎(国立天文台)
掲載誌: "The Astrophysical Journal"(インパクトファクター:5.521)
DOI:10.3847/1538-4357/aceb5f

掲載メディア:(2023年)
9月7日 ALMA望遠鏡公式サイト(英)"ALMA Uncovers Fine-Scale Fluctuations in Universe's Dark Matter"
9月7日 ニュースサイトFERPLEI(西)"Ciencia.-La distribución de la materia oscura como nunca antes se ha visto"
9月8日 ニュースサイトInverse(英)"New Map of Dark Matter Could Finally Solve a Cosmic Mystery"
9月12日 ニュースサイト UNIVERSE TODAY(英)"Astronomers Observe Blobs of Dark Matter Down to a Scale of 30,000 Light-Years Across"
9月13日 搜狐新闻電子版(中)「ALMA检测出的暗物质的密度波动」
9月14日 科学雑誌サイトSky and Telescope(英) "Dark Matter Clumps Float Between Galaxies, Data Shows"
9月14日 日本経済新聞電子版 「宇宙の暗黒物質、まばらに存在 近畿大など」
9月15日 日本経済新聞朝刊「暗黒物質、宇宙でまばらに存在」

研究支援
本研究は、⽇本学術振興会科学研究費補助⾦(No.17H02868, 19K03937)、国⽴天⽂台 ALMA 共同科学研究事業 2018-07A、同 ALMA JAPAN 研究費 NAOJ-ALMA-256、台湾 MoST 103-2112-M-001-032-MY3、106-2112-M-001-011、107-2119-M-001-020 の⽀援を受けて⾏われました。
 

(理学科物理学コース/理学専攻物理学分野 井上開輝)

森澤勇介 准教授らの総説がChemical Society Reviews (Royal Society of Chemistry 出版、 Impact factor 46.2)に掲載

理学科化学コースの森澤勇介 准教授は関西学院大学の尾崎幸洋名誉教授、立教大学理学部田邉一郎 准教授とともに研究を進めてきた減衰全反射遠紫外分光法についての総説論文がイギリス王立化学会(Royal Society of Chemistry)が発行するトップジャーナルであるChemical Society Reviews (Impact factor 46.2)に掲載され、front cover(表紙)の論文に選出されました。

森澤 准教授らは従来の方法では測定できなかった固体・液体の遠紫外波長領域の吸収スペクトル測定に対して、減衰全反射法による測定法を提案しました。その結果、様々な新しい科学的発見をすることができました。例えば、有機化合物の骨格をなすσ結合の電子状態を簡便に測定できる手法となり、新しいσ電子化学を拓く手法になると期待されます。

タイトル
ATR-far-ultraviolet spectroscopy: a challenge to new σ chemistry

著者
Yukihiro Ozaki, Yusuke Morisawa, Ichiro Tanabe
Chem. Soc. Rev., 2024, 53, 1730-1768

リンク
論文リンク  http://xlink.rsc.org/?DOI=D3CS00437F

DOI  https://doi.org/10.1039/d3cs00437f
the Chemical Society Reviews https://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/cs


 

(化学コース 若林知成)

松本浩一 准教授の開発した「ホタルルシフェリンの画期的な合成方法」がプレスリリース

ホタルルシフェリンの反応により発光するホタル(写真は近畿大学プレスリリースより引用)
ホタルルシフェリンの反応により発光するホタル(写真は近畿大学プレスリリースより引用)

理学科化学コース 松本浩一 准教授が民間化学企業と共同で進めていたホタルルシフェリンの画期的な合成方法が、2024年3月13日に大学からプレスリリースされました。
またこれを受けて、日刊工業新聞、および大阪読売新聞「科学・医療欄」に記事が掲載されました。

なお、本研究成果は、令和4年(2022年)12月14日に「D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体、並びにこれら化合物の前駆体、並びにこれらの製造方法」(出願番号:特許7194404、発明者:松本浩一他)として特許登録を行っています。

https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2024/03/041713.html



 

(理学科化学コース 佐賀佳央)

杉本邦久 教授が第26回国際結晶学連合会議(IUCr 2023)で招待講演

理学科化学コースの杉本邦久教授が、3年に1度開催される国際結晶学連合(IUCr)のオーストラリアで行われた大会(IUCr2023)で招待講演を行いました。
杉本教授は、放射光を用いた精密構造解析を通じて、構造と機能・物性の相関を解明する最新の研究成果を発表し、講演後には活発な質疑応答が行われました。
 

(化学コース 中口譲)

河野七瀬 講師が台湾で開催されたTaiwan-Japan Workshop on Atmospheric Physics and Chemistryで招待講演

写真はTJWAPC 2024で講演する河野講師(台湾)
写真はTJWAPC 2024で講演する河野講師(台湾)

理学科化学コースの河野七瀬 講師が台湾で開催された大気化学のワークショップ(TJWAPC 2024)で招待講演を行い、「Observation of OH radical precursors in atmospheric aerosols by filter sampling」というタイトルで最新の研究成果を発表するとともに、活発な質疑応答を行いました。
 

(化学コース 中口譲)

立山積雪の菌でつくった納豆「やまなっとう」発売中!

図 立山積雪から採取した納豆菌でつくった「やまなっとう」
図 立山積雪から採取した納豆菌でつくった「やまなっとう」

「空気中を浮遊する微生物」と聞くと、感染症やアレルギーの原因になるバイ菌を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、空気中の微生物の殆どは無害です。それどころか、食べると美味しい微生物も見つかりました。納豆菌です。納豆菌は、熱や乾燥に耐性のある芽胞という細胞を形成でき、この芽胞で悪環境を数年にわたって耐え抜きます。この芽胞で空気中を漂うと、他の微生物は死んでも、納豆菌だけは生き残ります。特に、黄砂によって中国大陸からやってくる砂には、飛んでくる道中に殆どの微生物は死んで、納豆菌だけが生菌として含まれています。ですので、飛行機で上空3000 mの黄砂粒子をとっても納豆菌、2000 mを越える高山に雪とともに積もる黄砂粒子をとっても納豆菌が見つかります。この度、富山の名峰立山の積雪中から採取した菌で納豆を作成し、6月から「やまなっとう」と銘打って北陸一円で発売開始しました。好評発売中!!!!

(生命科学科 牧輝弥)

藤田隆 准教授が令和5年度成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)に採択

機械工学科の藤田 隆 准教授が進める研究内容「半導体復活のためにサプライチェーンを強化するブラシ型研削板によるCMPパッド研削技術の研究開発」が、令和5年度成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)に採択されました。
https://www.kansai.meti.go.jp/3-5sangyo/sapoin/2023/kinki_saitaku_tsujyo_R5.pdf
本研究開発は、枚方のブラシメーカ(昭和工業株式会社)との共同開発によるものです。半導体製造プロセスの化学機械研磨⼯程において、研磨パッドを削り荒らす研削板における従来課題を克服し、⻑寿命で安定した研削性能をもつ⾰新的なブラシ型研削板を開発することを⽬的としています。国内の大手半導体製造装置メーカを出⼝企業として、主要な半導体製造装置の一つである化学機械研磨装置(CMP装置)とともに世界の半導体工場へ導⼊して国内の半導体サプライチェーンの強化を図ることを狙いとしています。

(機械工学科 宍戸信之)