環境・まちづくり系専攻の教員で、環境経済学・財政学を専門に、少数民族調査・民族文化保全活動の研究にも力を入れていらっしゃる藤田香先生。地域調査の前線に立つ先生に、研究の魅力を語って頂きました。
1.先生の学生時代に迫る!
環境分野の研究の原点は何でしょうか
大学生の時に、経済学部で金融関係のゼミと、哲学・倫理学・心理学のゼミに所属していたんです。哲学のゼミは「行動する哲学」を標榜していて、さまざまな社会的問題を抱える地域に調査に行く機会が沢山ありました。公害の原点といわれる水俣への調査に参加した際に、経済活動を優先し、環境への配慮が十分になされなければ、どのようなことが起こるのか、患者さんの問題だけではなく、患者さんをとりまく家族や地域、社会の問題が長期的な影響を及ぼし続けることを目の当たりにしました。これまで学んできた経済学の知識をいかして環境問題の解決について考えたいと思い、大学院で専攻した財政学の分野からの解決策として、当時、日本では全く議論が進んでおらず、これまでもこれからも政策として実現しないだろうと言われていた「環境税」について研究しようと思ったのが元々のきっかけです。
国際学会に積極的に出られていたとのことですが、どんな魅力があったのでしょうか
院生時代は国内学会だけではなく、国際学会という場にも積極的に参加し発表するべきだというゼミの先生からの指導がありました。国際財政学会(IIPF)に参加することで世界的に影響力がある研究者をまぢかにみたり、最先端の研究報告の場でディスカッションに参加したりすることで、もっと研究したいと思いました。そこには、学術雑誌などで論文を公表している有名な先生方が目の前にいるんですよ!それって、好きなミュージシャンさんが目の前で演奏していたり、好きな作家さんが目の前で自分の作品について語っているようなものです(笑)。憧れの人たちがその学会で議論をしているという場に居ることが、刺激的で魅力的だった。同時に、博士課程の時には、海外で学会報告したり、海外の先進地域を調査したりする機会があったことで、環境のことや財政・公共経済についての研究の刺激を受けたことが今日の研究に繋がっていると思います。
2.地域調査、その現在のカタチ
先生は現在どのような研究をされているのですか?
主に中国貴州省の少数民族地域の調査・民族文化の保全について研究を行なっています。でも、コロナ禍で、現地に行って直接話を聞くことは難しく、今は調査ができなくなってしまい……。そこで今は、国立民族学博物館の地域研究画像デジタルライブラリ(DiPLAS)のなかで、これまで関わってきた調査写真をアーカイブして自分たちの研究記録を後世に残そうというプロジェクトが採択されまして。約2800件もある地域調査の撮影資料にテロップをつけていく作業が残っています……。
それは大変ですね。調査先で印象に残っていることはありますか?
15年程前までは車で2日くらいかかるような外部の人が立ち入らないような村や、1泊15円ほどの宿では、鍵の役割をはたしていないような部屋で一夜を過ごすことになったため、何かトラブルに巻き込まれてもすぐに逃げ出せるように靴をを履いたまま寝ていました。こうした地域も現在では急激な近代化と経済発展を果たしており、急速な社会経済の変化の中で少数民族地域の伝統や文化をどう維持していくことができるのかが大きな課題となっています。こうした地域を対象に研究を続けてきており、これはその地域の伝統品である刺繍と藍染の作品です。
3.地域調査は信頼関係、感謝の気持ちを忘れずに
研究・調査をする上で大切にされていることは何でしょうか
調査は信頼関係の上に成り立つということですね。地域の調査をするというのは、他所者(よそもの)が入ってきて色々見たり聞いたりするということで、時間や関係性が必要で受け入れる側の負担にもなります。そういった関わり合いの中で、少しでも「地域の人たちにとって問題となっていることが解決に向かうようなお手伝いができるのか」ということを大切にしたいと思っています。
また、「何をどう解決すればいいかわからない」という状況が世界中にあると思うのですが、そういう状況の中でも必ず手を差し伸べてくれる人がいるということを忘れてはいけないと思っています。例えば、中国の水環境問題を調査している時に出会ったフォさんというNGOの方は、「癌の村」と呼ばれる非常に厳しい状況にある村の人たちの健康をなんとかしたい、と困難に立ち向かいながら活動されています。決して諦めずに地道な活動を続けている人たちとの出会いに力をいただいています。なにか起きた時に手を差し伸べてくれる人は必ずいて、そういう人たちに感謝の気持ちと、「自分たちはどんな恩返しができるのか……?」と常に考えています。
最後に、総合社会学部の学生に一言お願いします
まずは、自分を大切にしていただきたいと思います。次に一日一日を大切に過ごしていただきたいと思います。いろいろなつながりをいろいろな方法で持つことができる時代。出会いの数だけ人生は豊かになります。
総合社会学部は「社会を見つめるチカラを磨く。」をキャッチフレーズにスタートし、新しい時代を切り開く学びの場として、現代社会が直面する様々な問題について多角的にアプローチしています。「社会を見つめる目」を養っていただき、ご自身で考え行動する力を身につけてください。大学は面白いところです。
執筆:田村 優(環境・まちづくり系専攻 12期生)
文中の学年等は2021年度の取材当時のもの