心理専攻の教員で、「いのちの尊厳」や「家族心理学」などの授業を担当する塩﨑麻里子先生。先生の研究テーマや塩﨑ゼミでの活動の様子、さらには趣味や興味関心などにも踏み込んでインタビューさせてもらいました。また、塩﨑先生は総合社会学部設立当初から教鞭をとっておられ、教員の視点から見た総合社会学部の魅力についてもたくさん語って頂きました。
1.人の強さ、優しさに惹きつけられる
塩﨑先生の研究について詳しく教えてください
元々は「がん患者とその家族」という視点で、どうすれば家族はがん患者を支えられるのか、逆にどうしたらがん患者自身が家族を支えられるのかということに興味があり、大学院時代から研究を進めていました。がん患者と密接に関わるのは家族であり、家族という関係の中でサポートすることが、がん患者本人にとっても家族にとっても大切なのではないかなと感じています。そして患者と家族を支えるという考えは一貫しつつも、認知症患者とその家族の研究や、人の生と死に着目し、高齢者が人生を振り返った時に後悔しない生き方についての研究など、どうすれば人生を価値あるものにできるのかということにも関心を持っています。
患者と家族を支えるという中で、なぜ「がん」という病気に関心を持ったのですか
がんは生死に直結し、なおかつ治るか分からない重い病気です。例えば、人は風邪を引くとネガティブになってしまったり、引っ込み思案になってしまったり、普段通りの自分ではいられないと思います。肌荒れの時には人としゃべるのが嫌だなと思ったりもします。がんは、そんなちょっとした風邪、ちょっとした肌荒れの比ではない深刻な病気で、身体の病気であると同時に、心にも大きな影響を及ぼし、自分らしく在るということを困難にします。身体の状態は心にまで影響を及ぼしますが、それが生命を脅かし、死を意識させるがんであるならば、その影響はどれほどのものなのか。再発や転移など、治らないしんどさに対して人はどう向き合っているのか、どう打ち勝っていくのか。そういった点にはすごく興味がありましたね。
ご自身の研究の一番の魅力は何ですか
人間の強さや明るさ、優しさに触れることができるという点ですね。がんや生死、老いなどかなり重いテーマを扱っているのですが、その中で、病気を受け入れる強さや、家族を始めとした親しい人との関係の明るさ、お互いに思いやり支え合える優しさといった人間の魅力に触れる機会が非常に多いです。困難な中でも折れずに乗り越えていく強さを目の当たりにすることで、人間は脆いけれどもそれ以上に強い存在であるということを実感します。
がんの宣告をされた時には強いショックや不安を感じ、残された人生を悲観するかもしれません。家族や友人だって、自分の大切な人が死ぬかもしれないという恐怖を感じるでしょう。そうした強い絶望や不安を感じながらもそれを受け入れ乗り越えていけるのは、これまでに築き上げてきた、家族をはじめとした親しい人との絆があるからです。がんという出来事があって初めて関係が形成されるのではなく、それ以前に日々積み重ねてきた大切な人達との絆が、がんという大きな困難が生じたことで発揮されるのです。もちろん、最初から上手く乗り越えられるわけではありません。さまざまな困難にぶつかるたび、家族・友人との関係が揺らぎます。揺らがない関係なんて決してなく、けれど揺らぎながらもその都度より良い関係を築いていく、それが人間であり、だからこそ面白いんです。どんなに揺らぎ、時にぶつかってしまったとしても、それまでに築き上げてきた親しい人たちとの温かな関係によって、労わり合いながら困難を受け止め、そしてそれを乗り越えていけるのです。
2.多様な価値観に出会える場、それが総合社会学部
塩﨑ゼミではどんなことをしていますか
みんな色々好きにやってますね(笑)。がん患者と家族の関係に興味がある学生もいれば、老いること、死ぬことに関心がある学生もいますし、どれくらい長生きをしたいのかという長寿感について研究したいという学生もいます。家族という点に関して言うと、親子関係が子どもに与える影響について研究したり、結婚観について興味を持つ学生も毎年何人かいます。私のゼミを希望してくれている時点で学生の興味・関心は自然と似ているのですが、でもその中でもみんなそれぞれ独自の視点を持っていて、協力し合いながら自由に研究していますね。最近では、ゼミの先輩の研究を引き継ぐ形で、後輩たちが一つのテーマを掘り下げてプロジェクトのように取り組んでいたりもします。同じ学年の横のつながりだけでなく、学年を超えた縦の交流も大切にしています。
先生から見た総合社会学部の魅力は何ですか
色々な価値観を持った学生、教員が集まっていることが一番の魅力だと感じています。多様な価値観を持つ教員がいて、多様な学びがあって、そしてそれを学生が選択できる立場にある。総合社会学部は、学生が各専攻の枠を超えて学びを深めることができるので、自分のやりたいこと、学びたいことを見つけられる学部です。
そして学びにおいても、「学問」に留まらない学びを提供することを大切にしている教員が多いと感じます。大学だけで完結するのではなく、学んだことをその後の人生にどう活かしていくのかということを念頭に学生の指導にあたっているという点も非常に魅力的で面白い部分だと思っています。もしかしたら学生にとっては面倒くさいかもしれませんが(笑)。
3.時間は有限、無駄な日なんて一日だってない
趣味や最近のマイブームについて教えてください
ちょっと前にライムにハマっていました。ライムって何にでも合うんですよ。ビールや素麺、フォーにももちろん合いますし、お肉やお魚にもライムを使ってました。お湯やお水にライムを絞るだけでもすごく美味しいんです。だから夏にはライムをごっそり買って食べてましたね。
でも寒くなってくるとライムへの熱もちょっと冷めてきて。趣味というか、ずっと変わらず好きなのはやっぱりワインです。色々なワインを色々な食事と楽しんだり、飲んだワインのコルクも集めてて。それで、その集めたコルクが溜まりに溜まって400個ぐらいになって(笑)。思い出というわけではないけれど、捨てるのも忍びなく思っていたら、子供たちがそのコルクを使ってコルクの箱を作ってくれたんです。だから今はその箱にコルクを集めてます(笑)。
あとは、そうですね。今はコロナで難しいですが、その土地の美味しい食材と美味しいお酒を楽しみに旅をするのも好きです。結局、食いしん坊なんですね(笑)。
総合社会学部の学生に一言お願いします
大学4年間って、4年もあると考えるか、4年しかないと考えるかで全然違うんです。3年ほど前に家族を連れてアメリカに研究留学したのですが、半年という短い期間で何ができるか日々模索しました。仕事はもちろん、子供たちの学校のことや、遊びも全力で楽しみ、一日一日が本当にキラキラしていました。大学4年間は時間も体力も沢山あって、やりたいことに何でもチャレンジできる最高の期間です。4年もあると考えるのではなく、4年しかない、このわずか4年間で何をしようか常に考えながら全力で楽しんでみてください。失敗しても、後悔したって、人はそれを糧に成長できる強さを持っています。10年後、あの時行動していればよかったと後悔するぐらいなら、今行動してみてください。今この瞬間は、二度と取り戻すことのできないかけがえのない時間です。総合社会学部は、挑戦する全ての学生を応援しています。
執筆:太田 麻衣子(心理系専攻 10期生)
文中の学年等は2021年度の取材当時のもの