学部長あいさつ

「近畿大学農学部の目指すもの = SDGs (持続可能な開発目標)」

 近年の地球規模での急速な人口増加と産業の高度化、地球温暖化、砂漠化などの環境変化、化石燃料の枯渇に伴うバイオ燃料の生産、これらに伴う食料生産・供給への影響など、様々な問題が毎日のようにマスコミを賑わしています。さらに、食料自給率約40%の我が国では、農作物の輸出入の関税にも関わるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加も、これからの農業経営のあり方などに、大きく影響を及ぼすものと思われます。一方、我が国を含む先進国ではかつて人類が経験したことのない飽食の時代に入り、肥満が急速に増加し、高血圧、糖尿病など生活習慣病が蔓延ともいえるような広がりをみせています。さらに、我が国では65歳以上の人たちが占める割合(高齢化率)は、総人口の25%以上となり、世界に類を見ない超高齢化社会に突入し、年金や高齢者医療負担などの問題も毎日ニュースとなっています。

 2019年の秋頃から、世界中で拡大した新型コロナウイルス(Covid-19)による感染症のパンデミックは、2022年現在でも、いまだ終息とは言えず、社会のあり方や人々の暮らし、働き方などに大きな影響を与えました。大学においても、その影響は甚大で、不自由な大学生活を強いられた学生諸君も多く、私たち教職員も心を痛めています。

 このように我が国を含む世界の国々が抱える諸問題、そして我々がこの地球上で生きるということに関わるすべての問題を、「食料」「環境」「生命」「健康」「エネルギー」というキーワードで解決し、“宇宙船地球号”の新たな未来を切り拓く学問が、「農学」です。農学部では、産業的利用をはじめ、社会的な応用を意識した基礎から実学までの研究、すなわち基礎研究-応用研究-実学研究を行っています。事実、これまで農学部では、世界初のクローン牛の誕生、クロマグロの完全養殖、最近では、静電場スクリーンによる害虫・花粉などの防御、ES/iPS細胞とは異なる新規の多機能性幹細胞の樹立、ポリエステルの培地を使った植物栽培、野生イルカの新しい生態の発見、乾燥に強い植物の作出、ユーグレナからバイオディーゼルの生産、マイスター認定制度によるアグリビジネスの現場で活躍する人材の育成、柿ワインなど、産官学連携での多くの商品開発、病気に強いメロン(バンビーナ)の開発、なら近大農法(ICT農法)の確立、松茸の人工栽培への挑戦など、多く成果や挑戦を世の中に発信しております。さらに、基礎から実学までの大型の国家プロジェクトにも幾つか採択され、著名な学術雑誌への研究論文の掲載等、顕著な成果が出ています。

 教育においては、体系的学習を通して、環境・生命・食料に関連する分野での問題点を解決する能力、論理的な記述力、口頭発表力、討議などのコミュニケーション能力を身につけ、心(目的意識、モチベーション、知的関心など)、技(勉学、学習体験など)、体(健全・健康な身体など)、すなわち「心・技・体」のバランスの取れた主体性、協調性のある自己を確立し、グローバルな視野を持って社会に貢献しようとする人材を育成しています。

 2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が全会一致で採択され、17のゴール(目標)が2030年までの世界の達成目標となりました。目標1~17はそれぞれ、貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、水・衛生、エネルギー、経済成長と雇用、インフラ・産業化・イノベーション、不平等、持続可能な都市、持続可能な生産と消費、気候変動、海洋資源、陸上資源、平和、実施手段といったキーワードで表されています。

 近畿大学農学部はこれら17のSDGsのうち、特に次の8つの目標に応える教育・研究を行っています。それは「目標2(飢餓)飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」、「目標3(保健)あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」、「目標6(水・衛生)すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」、「目標9(インフラ、産業化、イノベーション)強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」、「目標12(持続可能な生産と消費)持続可能な生産消費形態を確保する」、「目標14(海洋資源)持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」、「目標15(陸上資源)陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」、「目標17(実施手段)持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」です。

 例えば、農業の効率化や品種改良、廃棄物の削減や有効利用、健康増進に有効な農作物の開発や利用促進、未利用資源の安全な食資源化、持続可能なエネルギー生産、疾病の理解や予防改善法の農学からのアプローチ、生命現象の分子レベルでの理解、持続可能な水産資源の利用、地球環境や地域環境の保全、種の多様性の理解と維持、森林資源の管理と有効活用農作物の病害虫被害からの防除など、実際に農学部で取り組まれている多くの研究がこれらのSDGsと関連しています。このように、近畿大学農学部は国連が設定したSDGsに応えていくことが出来る学部であり、これからの宇宙船「地球号」を救うのは『農学の力』であると言っても過言ではありません。
さあ、皆さん!近畿大学農学部で、社会に、人類に、地球に役立つ『農学の力』を身につけ、地球の素晴らしい未来を一緒に切り拓いていきましょう。

森山 達哉 農学部長
森山 達哉
TATSUYA MORIYAMA
農学部長
応用生命化学科教授
農学博士