研究テーマ事例の紹介
設計系空間デザイン研究室 竹口健太郎 教授
幅広く学び、本当に居心地のよい空間を設計する。
空間には人を感動させる力がそなわっています。それを、誰もが建築史の名作といわれているような建築を訪れれば、体験することができるでしょう。例えばローマのパンテオンや教会堂などに、世界中のツーリストが訪れていることからも明らかだと思います。
では、そのような建築を現代の私たちが設計することは、可能なのでしょうか?これも歴史が実証しています。歴史上の名作を産業革命以降の近代建築のコンクリートや鉄骨などの技術により短期間でそれに匹敵する建築が実現できるようになりました。これも例えば建築家の巨匠ル・コルビュジエの傑作などを訪れれば現在においてもそのような空間が実現できることが理解できるのではないでしょうか。 しかし、人の感情を揺るがすような空間体験を他の人間に説明する、客観的に記述することは簡単なことではありません。なぜなら、空間体験とは、個人の主観的な状況に基づくものだからです。
その上で、建築設計者は、あらゆる建築の用途において、自然(光や風、水)の力を借りて人工物である建築を通して、どこまで多くの人々にその空間の力を発揮することができるのか?と問い続けています。 空間デザイン研究室では、建築空間の力を体験し、その空間の特性を記述したり、分類したりします。そしてそのようなデータをこれから設計する建築に応用していきます。言い換えれば、これから建築を設計するために、人の感覚や感情に響くような空間的モチーフを探求しています。言葉によって記述された空間をはじめとして、図や模型によって表現された空間をも分析します。実現された建築、その表現された説明や模型、図面、写真などを対象とする、建築空間の醍醐味を探求する分野と言えるでしょう。
計画系都市計画研究室 脇田祥尚 教授
社会状況や都市の将来像を見据え建築計画を考える。
家族の会話が弾む住宅とそうでない住宅、お年寄りが元気に暮らせる住宅とそうでない住宅があります。どういう建築物をつくるかは、使う人の関係づくりや日常の快適さに大きな影響を与えます。土地を読み、経済を読み、規模を考え、適切なデザインを想定することが大切です。計画系では、地域や建築の課題を利用者・生活者・管理者の視点で明らかにしながら、良い建築物や都市をどのようにすれば実現できるかを日々研究しています。
自治体の事業に大学生が主体的に参画し、まちづくりの現場を体験しながら、より良い建築物や都市をつくるための合意形成の手法について研究しています。
建築物を利用する様々な人々の多様なニーズを相互に調整しながら、できるだけ多くの人々から高い満足度を得るための合意形成手法に関して研究しています。人々でにぎわう建築物や都市、人々に愛される建築物や都市をつくるには、人々と建築物とをつなぐための仕掛けが必要です。
例えば商業施設を建築する際には、どういう店舗だったら人が買い物に来てくれるのか、どのくらいの規模の建物だったら経営的にうまく行くのか、どういう仕組みをつくれば賑わい続けるのかを考えなくてはいけません。その土地の社会経済状況を前提としつつ、都市の将来像を見据えながら、そこに建つにふさわしい建築物を提案できる能力を身につけるのが建築学部といえます。その時々の社会経済状況に則した対応を行う必要があり、それは工学技術的な対応というよりは、新しいビジネスモデルの提案や地域の合意形成の促進でもあります。良い建築物が育まれるような社会をつくるには、文系的な発想が求められているのです。
構造系建築数理研究室 岩田範生 教授
災害に強い、財産や命を守る優れた構造を考える。
実際の建築物には大きく分けると2つの種類の力が作用します。1つは建物自身や積載物、雪の重さなどの下向きの力、もう1つは、風や地震などの横向きの力です。2次元の図面上に描かれた建築物を実際に作る際には、これらの複合的な力に対して耐えられるよう構造上十分な配慮が求められます。構造系の各研究室では、代表的な建築材料である木・コンクリート・鉄それぞれについて、材料の特徴を活かした構造のありかたを広く追求しています。
卒業研究の一環として、実際の建物と同じように揺れる建物模型を作って地震を再現する装置に載せて揺れを調べているところです。
地震に対して安全・安心な建築物を達成する手法を研究しています。これまでは壁やブレースなどを増やして建築物全体を硬くすることで対応するケースが多かったですが、このようにすると、建築物の中にある家具や設備に大きな力が作用して移動や転倒を招き、それらが壊れるだけでなく、場合によっては人が傷つくこともあります。そこで、揺れを効率的に吸収・遮断する制振・免震構造というものに着目し、様々な視点から研究を行っています。
建築物はその外観や間取りに目が行きがちですが、それを陰で支えているのが構造です。地震国である日本ではその役割は大きく、皆さんの財産や命を守るという重要な役目を担っています。また、優れた構造はそれ自体でデザイン性にも優れている場合が多く、近年では多くの建築物が構造を意識したデザインを採用しています。新しい建築物の構造のありかたを考えるには、これまでの建築構造学の中身だけでは不十分であり、機械・制御・情報など幅広い工学分野の知識が必要とされます。学生時代に幅広い分野の学問に興味をもってもらい、できるだけ多くの知識を習得してほしいと思います。
環境系建築環境システム研究室 岩前篤 教授
省エネや住宅の健康性から建築を考える。
地球環境問題が日々重要になる中で、建築におけるエネルギーの消費とCO2の発生、廃棄物の抑制がさらに大切になってきます。また、建築物を使う人、中にいる人の健康・快適性が、建築物の使われる年月に影響を与えます。光や音、暖かさ・寒さが、人の健康・快適性に与える影響が大きいことはいうまでもありません。建築物を作る際には、内部空間の健康・快適性、建築物の省エネルギー性・低炭素性などを考慮することが非常に重要です。環境系では、これらについて、何が望ましいか、どのようにすれば実現できるか、日々研究しています。
卒業研究の一環として、医療技術の専門家と共に、2万人を対象に、住宅の断熱性能と居住者の健康性について調査を行った結果の1つです。
研究テーマはたくさんありますが、なかでも、新築住宅の省エネルギー化、ならびに既存住宅の省エネルギー化は、非常に大きい課題です。省エネに関する要望はあるのですが、そのことにどれだけお金をかけようとするかは、人によります。省エネ化には非常にたくさんの手法があり、その人の暮らし方で、効果の高いものが変わります。
省エネ計画自体を整理し、また、省エネ化にかかる費用をできるだけ安くする技術を開発することが大きなテーマです。また、省エネ化した住宅が実は居住者の健康にも良いという調査結果も出ています。省エネ住宅は人にも優しいことが分かってきているのです。時代に左右されない基本的な部分をしっかり身につけることは、建築の世界で生きていく基本となります。時代に応じて変わる部分は、まさに、この部分の表現によって、自分らしさを建築に写していくことになります。自分らしい建築を作ることが出来るまで、時間はかかりますが、これほど面白いことはないと思います。是非、チャレンジしてください。