
Message VOL.16
工学部 建築学科
歴史意匠研究室
准教授
谷川 大輔
Daisuke Tanikawa
広島県は、県外への転出者が県内への転入者を上回る「転出超過」が5年連続で全国最多という深刻な⼈⼝減少に直面しています。建築学科の谷川大輔准教授は東京都出身でありながら、自然と共生できる環境を求めて東広島市に移住。同市福富町を舞台に、古民家リノベーションやツリーハウス制作など〝地域と関わる建築〟を核とした中山間地域の活性化につながる活動に取り組み、成果を上げています。人をワクワクさせる力を持つ、芸術としての建築観を説く谷川先生に、豊かな自然と都市機能が調和する東広島市に立地する広島キャンパスならではの建築の学びと、持続可能なコミュニティをデザインする挑戦について聞きました。




東広島市福富町の森に里山を整備し、中山間地域の活性化をめざす『みらいの⾥⼭プロジェクト』では、地域の歴史を学んだり、自然の中で遊んだりする活動を行っています。その一環として、自然の中に建築をつくることを考え、学生が適した場所や木を選び、高さ4mのツリーハウスを2025年に制作しました。「福富みらいの森」と名付けられた里山の象徴的な存在として、子どもだけでなく、大人が休息しながら非日常を感じられる場所としても人気を集めています。また、26年は、森の地形を生かした野外劇場づくりを計画しています。さらに、廃校になった小学校をリノベーションして、コワーキングスペースや3Dプリンターなどのデジタル工作機械を自由に使える「ファブラボ」などを設け、地域活性化の場とするプロジェクトもあり、学生と地域が一体となって新たな交流拠点を育てています。
「みらいの里山プロジェクト」参画のきっかけとなったのが、空き家となっていた築100年超の古民家です。伝統建築の技法を生かしながら、現代の建物に改修する研究・実践の場として、福富町の地域住民と約3年にわたってワークショップを重ね、学生とともに改修しました。「星降るテラス」と名付けられた古民家は、地域のコミュニティ拠点やイベントスペースとして生まれ変わりました。現在では、マルシェやコンサート、結婚式、外国人との交流などに利用され、地域と共存する建築として、人と人をつなぐ場となっています。学生たちは地域に飛び込み、時間をかけて地元の人たちと心を通わせ、関係を築きました。こうした実践を通じて、学生たちは「建築が地域に与えるインパクト」を肌で学びます。この地域資源を生かした中山間地域の活性化の取り組みが注目され、「みらいの里山プロジェクト」への参画につながりました。
東広島市は中心市街地と⾃然豊かな中山間地が、⾞でわずか20分の距離にあります。地方特有の環境や、ゆったりとした時間軸を生かし、風土や文化の魅力を最大限に引き出す建築のあり方をじっくり学びます。建築は単なる箱づくりではなく、「人として、どう生き、どう暮らすか」という人生哲学に結びついています。大都市偏重や学歴信仰といった固定観念にとらわれず、学生時代に多様な価値観に触れ、議論を交わす経験は、その後の人生をより豊かにする土台になります。
現地に足を運んで実際に体感することを大切にしています。学生は1、2年次に欧州を訪れ、世界遺産などの建築を見て、本物の空間を体験することで劇的に視野を広げます。学生と共に名建築を巡る欧州研修で、2026年はバルセロナ、ギリシャ、ローマを訪問。27年はバルセロナ、フィレンツェを予定しています。建築を志す原点は「超かっこいい!」「すごい!」と心が震える感動にあります。そこから建築史(日本・西洋・近代)を学び、建築デザインの思想や背景といった歴史的な文脈を理解し、「なぜここに、この形で建てられたのか」に考えを巡らせ、次世代の建築のあり方を探ります。工学的な技術だけでなく、歌や絵、物語のように人を感動させる芸術性が豊かな空間づくりにつながります。
効率や利益の追求によって機能ごとに分断された街ではなく、職、住、食の要素が混ざり合い、助け合える暮らしを体現できる、まちづくりのスタイルを模索します。こうした活動は、企業だけでなく、地域住⺠や行政、ボランティアなど、さまざまな人たちと関わりながら協働で進めます。多様な⼤⼈たちと意⾒を交わし、生活実感のある空間を創り上げる経験は、学生たちが社会に出たときの強⼒な武器にもなります。建築の持つパワーを原動力に「住み続けられるまちづくり」を⼀緒にデザインしましょう。
※教員の所属および職位は、2026年度現在のものです。