研究レポート

水田の遠隔管理技術により、環境や土地を守る。

国際開発・環境研究室/松野 裕 教授

 農業にとって水は必要不可欠な資源です。特に水田システムには用水路やため池など、水を有効活用するための仕組みが詰まっています。こういった人間に管理される水場は、生物の生息場所としても機能する大切な場所なのですが、近年、農家の減少や高齢化により、田んぼの休耕地化、ため池の管理不足、用水路の老朽化など、環境の悪化により生物が住みづらくなってきています。特に有名なのが、みなさんにも馴染みのある“メダカ”です。めだかの学校で唄われるくらいかつては私たちの身近に生息していましたが、2003年から絶滅危惧種に指定されています。
 こうした課題に対して、水の管理にICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)を用いる取り組みが行われています。例えば、田んぼの水位や水路の水質などをセンサーで計測し、そのデータをスマートフォンからリアルタイムで見ることや、遠隔から水の流れを操作する技術なども開発されています。
 田んぼは生物のすみかとして以外にも、その地域を洪水から守る役割も果たしています。山や田畑に降った雨は、土に浸透することでクッションになり、緩やかに流れていきます。ところが、アスファルトの地表では雨が急激に河川に流れるため、増水し洪水などの被害につながります。近年、ゲリラ豪雨や集中豪雨などが増え、その被害も甚大になってきています。そうしたリスクから人々を守るためにも、先端技術を用いた水田の持つ治水機能を有効的に活用するための研究が期待されています。

サンゴを守ることが、地球の生態系の未来を守ることにつながる。

水圏生態学研究室/ジン・タナンゴナン 講師

 “美しい海”を想像する時、みなさんはカラフルな魚に美しいサンゴ礁をイメージしませんか?しばしば“海中のお花畑”などと例えられ、海の美しい世界を演出するサンゴ礁はダイビングスポットとしても人気ですが、実はそのサンゴが絶滅の危機に瀕していることをご存知でしょうか?
 サンゴは体内に褐虫藻といわれる藻類を共生させ、その藻が光合成をした副産物を栄養にして成長します。その為、太陽の光が届く浅い沿岸に多く生息するのですが、そういった場所は漁業や生活排水など、人の生活の影響が直撃する場所です。水環境の劣化、地球温暖化による水温の変化などで、デリケートなサンゴは早ければ2050年には全滅してしまう可能性があるという研究結果もあります。こうした危機からサンゴを守るには、サンゴの生息する海域に海洋保護区を設置し、漁業を制限するなどして環境を回復させる必要があります。
 サンゴは魚にとって大切な存在です。サンゴを食べて生きている魚もいれば、サンゴ礁を住処にしている魚もいますし、産卵の場所にもなるので、サンゴを守ることはその海に住む魚を守ることになります。それは、周りまわって周辺海域の水揚げ高の増加にもつながりますし、サンゴに住む藻の光合成は地上の植物より多くの二酸化炭素を吸収しますので、地上に住む私たちの環境保全にもつながります。
 すべての生命は地球上で共生し、つながっています。美しいサンゴを守ることは、他の生物の生命を守ることにもなるのです。

大災害を“撹乱”という視点から見ると、違うものが見えてくる。

保全生態学研究室/早坂 大亮 講師

 地震や集中豪雨、津波に火山の噴火など、数年から数十年、数百年に一度の確率で起こる大規模な自然現象は、人間の視点から見ると多くの命を奪う“災害”であり、被災者の心に一生記憶に刻まれるものです。しかし、自然界にとってこれらの事象は、生命進化の長い歴史におけるほんの一瞬の「出来事」であり、なにより、場を“攪乱”してくれることで、生物集団の再構築を促し、新たな生態系が構成される機会を与えてくれる大事なものなのです。攪乱は、その場にさまざまな環境を作り出します。環境が異なれば、自ずとそこに生える植物も変わり、連鎖的にそこに生息する生物相も変化していきます。こうした小さな変化の積み重ねが、生物多様性の根源なのです。
 大規模な災害が起きた後に求められるのは、災害が起こる前の状態に戻す「復旧」作業です。そこで暮らす人々の生活が元のように、不自由なく暮らせるようにすることは重要です。しかし、すべてを元に戻すことが必ずしも良いとは限りません。自然の現象そのものを無かったことにしてしまえば、生物多様性にとってのチャンスも無くなってしまいます。
私たちは生物から様々なサービスを享受しています。自然の生態系が防災・減災に役立つこともあります。また、文化や景観という目には見えない心の機能も果たします。そして、そのサービスは生物・生態系の多様性が高ければ高いほど価値あるものとなります。
大切なのは、“自然にとって残しておくべき変化”と“人にとって元に戻すべきもの”とをきちんと精査し、何でも人の手で直してしまうのではなく、自然に任せてよいものは極力残しておく、というメリハリをつけることです。
 生物多様性の損失は、絶滅の渦への第一歩です。環境保護という言葉がありますが、自然がもたらした環境破壊か、人の手でもたらされた環境破壊かを十分に考え、人が手を出すべきことかどうかをきちんととらえ行動することが、本当の意味で「まもる」ことにつながるのではないでしょうか。