研究レポート

慢性腎臓病患者の方に、食事の視点から治療をアプローチする。

臨床栄養学研究室/木戸 慎介 准教授

 日本では、成人の8人に1人が慢性腎臓病だといわれ、新たな国民病として新たな治療法や創薬の研究が進められています。腎臓は体内のミネラル代謝の調節に大きな役割を果たしていて、慢性腎臓病になると腎臓機能が低下し、ミネラルを体の外に排出できなくなります。このミネラルのうち代表的なものが“リン”や“カリウム”で、徐々に体内に溜まっていくことで“高リン血症”や“高カリウム血症”を引き起こしてしまいます。私たちは、この慢性腎臓病に“食事”という視点から治療ができないか?と考え、日々の最適な食事療法の考案をメーンに研究を進めています。
 リンは基本的にすべての食品に含まれています。タンパク質と密接にからみあっていて、リンだけを取り除いた食品を作ることは簡単ではありません。ただ、リンが体に吸収される際、食品によってその吸収率に差があることがわかってきました。特に動物性のリンは吸収がよく、植物性のリンは吸収されにくいというデータが見られ、これをふまえた慢性腎臓病の患者さん一人ひとりにあった、オーダーメイドの病院食が作れないかと考えています。また、カリウムの含有量の少ない高機能野菜の開発にも取り組んでいます。カリウムは野菜などを育てる際に土から吸収されるため、カリウムを減らすには土を使わずに栽培する必要があり、設備に非常にコストがかかってしまいます。そこで私たちは農業生産科学科の研究室と連携し、“ポリエステル繊維培地”を利用した栽培方法に着目し、土を使わず安価に野菜の栽培ができないかと考えています。
 こうした研究を医療機関と連携し、“医食農連携プロジェクト”を発足、私たちの研究が医療に活用できないかを模索し、新しい食事療法の確立を目指しています。

スポーツ選手の体作り、子どもの食育など、
あらゆる世代に対する食環境の改善を目指した栄養教育プログラムの開発

栄養教育学研究室/明神 千穂 講師

 健康で生き生きとした生活を送るためには、身体の発育・発達段階に応じた正しい食生活が大切です。私たちは栄養管理という視点から、ライフステージに合わせた栄養教育プログラムの開発を研究として行っています。

 例えば、スポーツ選手だと、試合で最大限の力を発揮するためには、選手一人ひとりの身体やその競技に合わせた栄養管理が必要とされます。アメリカンフットボールやラグビーなどのコンタクトスポーツは、当たり負けしない身体づくりが何よりも重要となります。しかし最初は、アスリートとして必要な栄養、バランスそして量を考えた食事をすることが何よりも大切な要素となります。さらに競技特性、ポジションに合わせた食事をし、かつトレーニングのタイミングに合わせて食事を摂ることが必要となります。それが選手のパフォーマンスを向上させ、さらに怪我を減らすことにもつながります。私たちは、これまで本学のアメリカンフットボール部、野球部や陸上部へ栄養サポートを行い、短期間で食意識・食行動が改善し競技力が向上する栄養サポートプログラムを開発してきました。2016年にドラフト会議で巨人から2位指名を受けた畠世周選手も、近畿大学での選手時代に、私たちが栄養サポートを実施し、食に対する意識、行動の改善をはかり、プロで活躍できる身体づくりの基礎を身につけました。近年、オリンピックやプロの世界で活躍する選手には、必ず管理栄養士がついており、栄養管理が選手の競技力向上にとって重要な要素であるという認識が、スポーツ業界で高まってきています。
 また、私たちの研究室では、3歳〜5歳の幼稚園児、保育園児に対して“野菜嫌いをなくし、食べ物に感謝の気持ちを持てる子どもを育てる”というテーマで、栄養教育プログラムの開発を行っています。幼児期は、生涯にわたる食習慣や食に対する考え方の基礎が身につく大切な時期なので、まずは“野菜に親しくなろう”ということを目的に、野菜の栽培活動、お絵かきや粘土などを使った造形活動、さらにクイズや歌を取り入れ、遊びを通して野菜のことを知ってもらい、食への関心を高める食育を、幼稚園や保育園と連携して実践しています。中でも一番効果があるのがクッキングです。自分たちで育てた野菜を用いて、包丁を使って料理をし、それをお友だち、先生、お父さん、お母さんに食べてもらうことで、料理のする楽しさや、食べて喜んでもらう嬉しさを知ります。それによって、好き嫌いや食べものを残すといった行動が減少し、食べ物や作ってくれる人への感謝の気持ちが芽生えるといった効果がみられています。
 あらゆる世代に対して、この先起こるであろう、食や健康に関する問題を解決することを目的とした栄養教育プログラムを開発し、生涯にわたって健康で生き生きと過ごせる人が、一人でも多くなることを目指して研究を行っています。

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